第2章 分野ごとに見た国際情勢と日本外交

 

 前章で述べたように、国際社会は、多くの流動的要素をはらみつつも、新たな平和と繁栄の枠組みに向けて着実な努力を続けている。このような国際社会の努力は、平和と安全の確保という政治面、繁栄の確保と拡大という経済面、そして環境、人口といった地球規模問題の面などあらゆる分野で進められている。本章においては、国際社会の努力についてこのような分野ごとに見ていく。

 

第1節 政治・安全保障

 

 1. 日本の安全の確保

 冷戦後の国際社会には、依然として様々な流動的要素が存在しており、また、日本が位置するアジア太平洋地域は、域内各国の著しい経済発展をも背景として、政治的・社会的に比較的安定しているものの、朝鮮半島には依然として南北の厳しい軍事的対峙が継続しているほか、北朝鮮の核兵器開発問題や、南沙諸島の領有権をめぐる争いなど、多くの未解決の問題や不安定性をも内包している。

 このような安全保障環境の中、日本は、(あ)日米安全保障体制の堅持、(い)適切な防衛力の整備、(う)国際の平和と安全を確保するための外交努力、という三つの柱からなる安全保障政策を推進している。

 

(1) 日米安全保障体制

[日米安保体制の意義]

 日本が、非核三原則を堅持し、必要最小限の防衛力を保持するとの政策の下、平和と繁栄を享受していくためには、日米安保条約に基づく米国の抑止力が必要である。また、日米安保体制は、国際社会における広範な日米協力関係の政治的基盤となっており、さらに、アジア太平洋地域における安定要因としての米国の存在を確保し、この地域の平和と繁栄を促進するためにますますその重要性は高まってきている。

 このような認識の下、7月の日米首脳会談において、日米安保体制の堅持が確認された。また、日米安全保障協議委員会が日米双方の閣僚をメンバーとして史上初めて開催された(3月)ほか、2度にわたる米国国防長官の来日及び河野外務大臣、玉沢防衛庁長官の訪米等を通じ、様々なレベルで日米安保体制の信頼性向上を図るための緊密な対話が図られた。

[日米安保体制の円滑かつ効果的な運用のための努力]

 日本には、日米安保条約に基づいて、おおむね45,000名から48,000名の米軍が駐留している(注)。日本政府は、このような米軍の駐留を支援するため、87年度以降米軍従業員の労務費を、また、91年度以降これに加え米軍の光熱水料を「駐留経費に関する特別協定」に基づき負担するなど、自主的にできる限りの努力を行ってきている(94年度には、在日米軍駐留経費として約5,944億円を負担)。米国政府は、このような日本側の努力を高く評価しており、米国国防費が削減される傾向にある中、駐留経費負担をはじめとする日本側の努力は、この地域における安定要因としての米軍のプレゼンスを確保する上でますます重要になっている。

 一方、米軍の活動が米軍施設・区域周辺の住民に与える影響などが従来より問題となっている。これに対し、政府は日米安保条約の目的達成のため、米軍の円滑な駐留を確保するという要請と、このような影響を少しでも軽減するという地域住民の要望との調和を図るべく諸策を講じてきている。その一環として、沖縄における米軍施設・区域の整理統合の推進、米軍艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)の硫黄島における実施の促進のため努力を継続している。また、11月には、神奈川県逗子市の池子米軍住宅建設問題について、地元と国の間において住宅建設の合意が達成された。

[安全保障及び防衛面での米国との協力]

 近年日本の技術水準が向上してきたことなどを背景に、防衛分野における日本との技術の相互交流に対する米国側の関心が高まっている中、この分野における日米の技術交流を進めることは日米安保体制の効果的な運用を確保する上で重要になっている。このような見地から、現在ダクテッド・ロケット・エンジンの共同研究が進められているほか、先進鋼技術等5分野の共同研究についての検討が行われている。また、現在進められている航空自衛隊の次期支援戦闘機FS-Xの共同開発は、日米の優れた技術を結集するものであり、日米間の技術交流を推進するものとして極めて大きな意義を有している。

 また、クリントン政権は、冷戦後の国際社会における大量破壊兵器の拡散の危険などを踏まえ、米国の同盟・友好諸国及び米国の前方展開戦力をミサイル攻撃から守る戦域ミサイル防衛(TMD)の開発を進めている。米国は、TMD構想について同盟国との協力を呼びかけているが、政府としては、米国の考え方を聴取しつつ、日本の防衛計画におけるこの構想の意義を判断することとしており、現在米国と事務レベルでの協議を継続している。

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(2) 防衛力整備

 日本は平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないとの基本理念に従い、節度ある有効な防衛力整備に努めている。日本がこの面でできる限りの努力を行うことが、日米安保体制の信頼性・有効性を高める上からも重要である。

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(3) 国際の平和と安定を確保するための外交努力

 以上の努力と並行して、国際の平和と安定を高めるような様々な外交努力を行っていくことは、日本の安全保障政策の重要な柱である。

 特に日本を取り巻くアジア太平洋地域は、各国の脅威認識や地政学的条件などにおいて複雑・多様である。このような中で日本の安全と地域の平和と安定を確保していくためには、米軍の存在を前提としつつ、(あ)個々の紛争・対立の解決を図り、地域の安定を図っていくための二国間ないし関係国間の対話と協力、(い)アジア太平洋全域における、お互いの政策の透明性と安心感を高めるための政治・安全保障対話、(う)域内各国の経済発展への支援・協力を通じた地域の政治的安定性の増大といった、様々なレベルでの努力を積み重ねていくことが重要である。北東アジアにおける関係国間の協力としては、北朝鮮の核問題解決のための日米韓を中心とする協力があるが、今後は中長期的観点から北東アジア地域の安定に向けた話合いを行っていくことも重要である。また、全域的政治安保対話については、94年からASEAN地域フォーラム(ARF)における対話が進められている(P34~36参照)。

 以上に加え、冷戦後の新たな安全保障の在り方を模索している欧州との対話・協力、平和維持活動(PKO)等による地域紛争への取組、軍備管理・軍縮、不拡散への努力なども、日本を含めた世界の平和と安定を確保するという観点から重要であり、引き続き積極的に取り組んでいく必要がある。

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2. 地域紛争への包括的取組

 第1章に述べたような地域紛争への対応のため、国際社会は国連を中心に紛争の予防、政治和解、停戦・選挙監視、人道支援、復興開発援助など様々な側面から平和の維持・構築に取り組んでいる。

 

(1) 紛争の予防

 地域紛争の発生の危険の増大と一部紛争の長期化が見られる中、紛争の発生・拡大を予防する必要性の認識がますます高まっている。広義の予防外交としては、紛争の原因ともなる社会の不安定を取り除く経済協力などが重要であるが、より狭義には、92年にブトロス=ガーリ国連事務総長が提出した「平和のための課題」において予防外交の具体的手段

国連保護隊(UNPROFOR)は、マケドニア旧ユーゴースラヴィア共和国においては紛争予防、クロアチアにおいては停戦監視、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいては人道援助の確保をそれぞれ主たる任務としている。=ロイター・サン

 

として示されている信頼醸成措置、事実調査、早期警戒、予防展開、非武装地帝などが含まれよう。

 このような観点から、旧ユーゴー紛争の拡大を予防する目的でマケドニア旧ユーゴースラヴィア共和国に国連保護隊(UNPROFOR)が予防展開しており、日本も、マケドニア旧ユーゴースラヴィア共和国とアルバニアへの支援を通じ、同紛争の拡大の予防に努めている。

 また、紛争の予防については、地域機関を通じた活動も重要である。欧州においては、欧州安全保障・協力機構(OSCE)が早期警戒、紛争予防、危機管理を重視して活動しており、旧ソ連諸国や旧ユーゴーに紛争予防・危機管理ミッションを派遣している。さらに、相互の軍事的透明性を確保するための信頼醸成措置の充実が図られている。その他の地域においては、欧州ほど地域機関が成熟しているとは言い難いが、アジア太平洋においても、ASEAN地域フォーラムにおいて政策の透明性と相互の安心感を高めるための対話と協力への取組が開始されている。

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(2) 政治和解

紛争が発生した場合においては、まず紛争当事者間の政治的和解を促し、停戦合意、和平合意を実現することが必要になる。この過程では、当事者間での協議、交渉を行うとともに、国連や主要関係国が協調して紛争各派に受け入れられる合意の枠組みをつくっていくが、国連や多国間会議などの場を通じてそのような合意の枠組みに対する国際社会の一致した支持を示していくことも重要である。また、復興開発援助など紛争終結後の具体的なビジョンを示しつつ和解を促進することも効果的な場合もある。

 現在この過程にあるものとしては、中東和平、旧ユーゴー、ソマリアなどが挙げられ、このうち中東和平については、イスラエル・ジョルダン間では94年10月平和条約が締結された。ソマリアにおいては、93年、

 

旧ユーゴーの紛争当事者との会談のためにサラエヴォに到着したガーリ国連事務総長を出迎える明石旧ユーゴー問題担当国連事務総長特別代表兼国連保護隊代表(11月)=ロイター・サン

 

一部の当事者間のみの政治和解の下で、国連安保理が第2次国連ソマリア活動(UNOSOMII)に対し強制的な措置をとる権限を付与したが、これが期待された効果を挙げられなかった経験に基づき、現在では紛争各派を含めた形での政治和解が追求されている。日本は、これらの紛争の政治的解決に向け、国連や主要国首脳会議(サミット)等における議論に積極的に参加している。

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(3) 停戦・選挙監視

 停戦合意の履行、治安の維持及び正統政府を確立するための公正な選挙の実施を確保するにあたっては、特に国連の平和維持活動(PKO)が大きな役割を果たしている(PKOについてはP24~27参照)。

 また、OSCEにおいても、旧ソ連等を対象として選挙監視が行われるとともに、旧ソ連のナゴルノ・カラバフにおける停戦監視のため平和維持隊を派遣することが検討されている。

 日本は、94年は、国連モザンビーク活動(ONUMOZ)に司令部要員5名、輸送調整部隊48名、選挙監視要員15名、国連エル・サルヴァドル監視団(ONUSAL)に選挙監視要員15名をそれぞれ派遣した。

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(4) 人道上の問題への取組

 ルワンダや旧ユーゴーに見られるように、地域紛争が大量の難民・避難民を発生させるなど人道上の重大な問題につながることが多い。難民・避難民に対する救済、さらには紛争終結後の本国への帰還や再定着のための支援については、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)をはじめとする関連国際機関が中心的役割を担っているほか、多くのPKOが人道援助活動の支援の任務を負っている。日本は、国際機関を通じた資金協力や物資協力及び関係各国に対する二国間食糧援助などを行っているほか、94年はルワンダ難民支援のため、国際平和協力法に基づく初めての人道的な国際救援活動を実施するため、自衛隊部隊を中心に要員

 

ムガラ(タンザニア)の難民キャンプでルワンダ難民の子供たちに歌で迎えられる緒方国連難民高等弁務官(7月)=共同

 

を派遣した(ルワンダについてはP5~8参照)。

 また、難民・避難民発生の問題に加え、紛争中に発生する集団殺害や拷問等の国際人道法に対する重大な違反行為にいかに対処すべきかという問題が重要になってきている。このような違反行為を犯した個人を審理・処罰するため、国連安保理は93年5月に旧ユーゴーに関する国際裁判所を設立したのに続き、94年11月にはルワンダに関する国際裁判所を設立した。また、国連総会は、このような個人の犯罪を処罰すべしとの機運の高まりを踏まえ、12月常設の国際刑事裁判所設立に向けた決議(注)を採択した。

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(5) 復興開発援助

 地域紛争の真の解決のためには、武力紛争の終結のみでなく、その地域における経済社会の復興を支援し、将来の共存・協力の枠組みを形成することにより、平和と安定を永続的なものとすることが重要である。

 このような観点から、中東においては、和平に向けた当事者間の直接交渉と併行して、域外国を含めた多国間協議が開催され地域協力の促進が図られており、94年には中東・北アフリカ経済サミットが開催された。日本はこれらの国際的取組に積極的に参画しているほか、パレスチナ暫定自治の立ち上がり経費支援と社会・経済状況の改善のための支援を行っている(P15~19参照)。

 カンボディアについては、日本はカンボディア復興閣僚会議及びカンボディア復興国際委員会(ICORC、94年3月に第2回会合を東京にて開催)の議長を努め、復興支援に中心的役割を果たしているほか、国連を通じてカンボディアの司法制度整備に協力している。

 

カンボディアに対する復興開発援助-日本の無償資金協力によって建設されるカンボディアの日本橋(2月開通)

 

 そのほか、日本は、エル・サルヴァドルなどの復興支援のため財政面、技術面での協力を行っているほか、ハイティについてもその復興のために経済協力を再開することを決定した。

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3. 軍備管理・軍縮の促進及び不拡散体制の強化

 冷戦終結後、米露間の核軍縮合意の実現、化学兵器禁止条約の署名、主要核兵器国による核実験モラトリアムの継続、全面核実験禁止条約(CTBT)交渉の進展など、国際社会においては核軍縮をはじめとする軍縮への機運が高まっているが、一方で、旧ソ連諸国等の厳しい経済状況を背景に、核兵器の着実な廃棄の見通しが立っていないのに加え、外貨獲得のための武器輸出、大量破壊兵器関連物資、科学者の流出のおそれは依然大きい。また、冷戦終結に伴う地域紛争の危険性の増大は、これらの地域における兵器需要を高めている。この中にあって、国際社会は核軍縮をはじめとした軍縮の動きをより確かなものとすべく努めるとともに、大量破壊兵器等の不拡散体制の強化に向け真剣に取り組んでいる。94年は、日本提案による「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議」が、国連総会において圧倒的多数の支持によって採択されたが、日本としては今後ともこのような積極的かつ創造的な役割を果していかねばならない。

(1) 核不拡散・核軍縮の努力

[米露核兵器削減]

 91年に米ソ間で締結された第1次戦略兵器削減条約(START I)(注)は、94年2月にウクライナが批准したことにより全当事国(米、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ)による批准が終了した。ロシアは、ウクライナの核不拡散条約(NPT)加入をSTART I批准書交換の条件としていたが、ウクライナが、核兵器国による安全の保障、自国内配備の核兵器の放棄に対する経済的補償などを要求してNPT加入に後向きな態度をとったため、START Iの発効は一時暗礁に乗り上げていた。そのため、日本を含む主要国がウクライナに対しNPTの早期加入の働きかけを続けた結果、ウクライナ議会は94年11月、核兵器国がウクライナの安全を保障する法的拘束力のある文書に署名することを条件としてNPT加入を決定、12月には加入が実現し、START Iの発効を見るに至った。これは核軍縮の画期的な進展であり、さらにSTART Iの発効を受けて、米露両国が第2次戦略兵器削減条約(START II)(注)

 

ウクライナが加入したNPTの関連文書に署名する各国首脳(手前より、エリツィン・ロシア大統領、クリントン米大統領、クチマ・ウクライナ大統領、メージャー英国首脳)。これによりSTART Iが発効した(12月)。=ロイター・サン

 

早期に批准することが期待される。

 また、厳しい経済状況にある旧ソ連の核兵器の廃棄を促進していくため、米国をはじめとする各国が支援を行っているが、93年4月、日本も、総額約1億ドルの支援を行うことを決定した。これまでに、日本は、ロシア、ウクライナ、カザフスタン及びベラルーシとの間でそれぞれ支援の実施の枠組みに関する二国間協定を結び、現在様々なプロジェクトの具体化に努めている。さらに、大量破壊兵器関連の技術・ノウハウが旧ソ連から流出することを防止するため、日本は、米、EUとともに国際科学技術センターの設立に貢献している。

[核不拡散条約延長に向けた動き]

 条約発効後25年にあたる95年に核不拡散条約(NPT)の延長期間(無期限又は一定の期間の延長)を決定するための会議が開催される。これは、将来のNPT体制の在り方を左右する極めて重要な会議である。非同盟諸国の多くは、NPT延長期間についての考えは明確にせず、この問題と核軍縮、全面核実験禁止条約(CTBT)締結交渉の進捗状況などを関連づけて検討するとの立場をとっている。

 しかし、国際的な安全保障にとって、NPT体制を安定的なものとすることにより、核兵器国の増加を防止することが不可欠である。日本は、このような認識の下に、先進各国と共にこの会議に向け無期限延長支持の立場を内外に表明してきている。94年7月のナポリ・サミットの議長声明においても、G7各国とロシアがNPTの無期限延長を支持することを明確にした。無論、NPT無期限延長は、核兵器国による核兵器の保有の恒久化を意味するものであってはならない。日本としては、核兵器の廃絶という究極目標に向けて、以下に述べるCTBT交渉の早期妥結など、すべての核兵器国に対し一層の核軍縮努力を引き続き求めていく考えである。

 また、NPTは、94年末現在166か国が締約国となっているが、インド、パキスタン、イスラエル等の国が今もNPTの枠外にとどまっており、これらの国のNPT加入を求めていくことがNPT体制の強化にとって重要となっている。日本としても、93年よりインド、パキスタンとの間で核不拡散協議を開始し、NPT加入促進の努力を行っている。

[全面核実験禁止条約交渉]

 94年は、93年に引き続き全面核実験禁止に向け進展が見られた。現在、ロシア(91年10月より)、フランス(92年4月より)、米国(92年10月より)が核実験モラトリアムを実施し、英も実質的に核実験を停止している。その中で、94年1月から、軍縮会議(CD)においてCTBTに関する本格的な審議が開始され、「普遍的な、かつ多国間で効果的な検証が可能なCTBT」を目指し、精力的な協議が行われた。その結果、9月に、各国の異なる意見の並記にとどまったものの、今後の交渉のたたき台となる議長条約案文が作成された。95年のNPT延長会議を控え、今後の交渉のさらなる進展が期待される。このように全面核実験禁止条約交渉が精力的に行われている今日、中国が94年に2回にわたり(6月、10月)核実験を実施したことは遺憾なことであり、日本はこれ以上核実験を行わないことを中国に対し繰り返し訴えている。

[核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議]

 このような国際社会の努力の中で、日本は唯一の核被爆国として、核兵器の廃絶を究極的な目標とし「現実的かつ着実な核軍縮」を促すため、第49回国連総会において「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議案」を提出し、これが採択された(注1)

 この決議は、前文において米露等の核軍縮努力及びCTBT交渉の進展を歓迎し、NPTの果たしてきた役割を評価し、主文において(あ)NPT未締約国に対し、同条約への早期加入を要請し、(い)核兵器国が核兵器の究極的廃棄を目標とする一層の核軍縮努力を行うことを呼びかけるとともに、すべての国が、大量破壊兵器の軍縮と不拡散の分野における約束を完全に履行することを呼び掛けたものである。この決議が採択されたことにより、今後の核軍縮の基本的方向性が明確に示されたことは大きな意義を有する。

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(2) その他の大量破壊兵器の禁止

[化学兵器禁止条約]

 化学兵器の廃絶を目指す包括的な条約である化学兵器禁止条約(CWC)(注2)は、93年1月から署名が開始され、94年12月現在159か国が署名し、18か国が批准を行っている。この条約は95年中にも発効する可能性があるが、現在、その発効に向けて化学兵器禁止機関(OPCW)(注)準備委員会において、同機関の設立にかかわる行・財政問題及び条約の実施確保のための検証手続問題に関する検討作業が行われている。日本としては、同準備委員会の作業に積極的に貢献しているほか、CWCの早期批准に向けて準備を行っている。

 

国際的不拡散体制の概要

 

[生物兵器禁止条約]

 生物兵器禁止条約(BWC)は、生物兵器の生産、貯蔵、保有、移転等の禁止を目的とする条約であるが、1976年の条約採択当時から同条約には検証制度がないことが大きな欠陥とされてきた。このため、91年以降専門家会合によって、科学的、技術的見地から検証手段の検討を行ってきた成果を踏まえ、94年9月に締約国の特別会議が開催され、検証制度を含め、同条約強化を目的とした新たな法的枠組みを検討するための専門家会合の設置を決定した。同専門家会合は、95年後半から作業開始の予定である。なお、BWCの締約国数は、94年7月14日現在131か国である。

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(3) 通常兵器の移転問題

 大量破壊兵器だけでなく通常兵器についても、その安易な移転とそれに伴う過剰な蓄積は、地域紛争など地域の不安定要因となりうる。軍備の透明性・公開性を向上させることを目的として日本等のイニシアティヴにより92年1月より国連軍備登録制度が発足したが、これまでに92年の第1回登録(91年の数量の報告)については90か国が、また93年(92年の数量の報告)については83か国が、戦車、戦闘機など7種類の攻撃兵器の輸出入数量を報告している(94年10月現在)。この制度については、参加国の拡大を通じた普遍性確保が大きな課題であり、日本は、アジア太平洋ワークショップの開催等を通じて各国の理解と参加を促進するなど国連軍備登録制度の円滑な運営に大きな役割を果たしている。また、日本は、軍備保有に関するデータも自発的に提供するなど、他国と協力して制度の充実に向けて努力している。

 また、通常兵器の安易な移転が人道上の問題を惹起しているとの問題もある。特に、紛争発生時に無差別に設置された後放置された対人地雷による文民への被害が深刻化し、人道的観点よりも大きな問題となっている。このため、93年の国連総会においては、地雷に関する規制を含む特定通常兵器禁止条約(CCW)の再検討を求める決議が採択された。

同決議に基づき、対人地雷の規制強化を目的としてCCW再検討会議を開催すべく、政府専門家会合等による準備プロセスが開始されており、95年9月には再検討会議が開催される見込みである。また、アフリカ等の一部地域の内戦における戦闘の拡大や死傷者の増加の背景となってい

 

ザイール軍によって押収されたルワンダ旧政府の弾薬。通常兵器の移転とそれに伴う過剰な蓄積は地域紛争など地域の不安定要因となりうる。=陸上自衛隊

 

る小火器の安易な移転及び不正取引も取り組むべき課題となっている。

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(4) 核物質の密輸問題

 94年夏、欧州において相次いで摘発された核物質の密輸は、国際社会全体の平和と安定に対する脅威である。日本としても、旧ソ連諸国における核物質管理に協力するとともに、密輸に対する取締体制の強化に向けた国際協力に積極的に参加している。

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(5) 輸出管理体制の強化

[大量破壊兵器及びミサイルの不拡散のための輸出管理体制]

 核兵器、生物・化学兵器とその運搬手段となるミサイルの拡散を防止するため、各国は共通のガイドラインや合意に基づいてそれらの兵器の製造に使用される関連物質と技術に対し輸出管理を行っている。核兵器関連品目についてはロンドン・ガイドライン(注1)に基づく原子力供給国グループ(NSG;30か国が参加)が、生物・化学兵器の関連品目の輸出管理についてはオーストラリア・グループ(28か国が参加)が、ミサイルについてはミサイル関連技術輸出規制(MTCR;25か国が参加)があり、日本はこのような国際的な輸出管理レジームに積極的に参加している。

[ココム解消と新機構の設立─通常兵器関連輸出規制]

 冷戦の終結により、旧共産圏に対する戦略物資及び技術の輸出規制を目的とした輸出規制委員会(ココム)は94年3月末をもって解消された。一方、地域紛争の発生・拡大を背景として、兵器拡散の懸念が高まっており、こうした懸念に対処するため、現在、ココムに代わり、新たな懸念国を念頭において、通常兵器及びその関連汎用品の輸出規制の国際協調を図るための新機構を設立すべく協議が進められている(注2)。なお、新機構設立までの期間は、暫定的に各国がそれぞれ輸出規制能力を維持することが合意されており、日本もその合意に基づく輸出規制を行っている。

[第三国の輸出管理の整備・強化への協力]

 国際的な輸出管理の実効性を高めるため、上記の輸出管理レジームは、非参加国に対し、輸出管理制度の整備・強化を呼びかけている。日本も、アジア諸国やNIS諸国等に対し、セミナーや研修等の実施を通じて、輸出管理分野での協力、対話を進めている。

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(注)    米国は、93年9月に発表した「ボトム・アップ・レビュー」(積み上げ方式による 見直し)と題される報告において、日本を含む北東アジアに約10万人の兵力を維持するとしている。
(注)  国際刑事裁判所設立に向けた決議要旨:

(1) 裁判所規程草案を精査するための特別委員会を設置する。

(2) 第50回(95年)国連総会において、本件裁判所設立に関する条約を作成するための外交会議開催の時期、期間を決定する。

(注)  94年12月現在、米、旧ソ連にはそれぞれ約1万発の戦略核弾頭があり、第1次戦略兵器削減条約(START I)によってそれぞれ6,000発(条約上のみなし計算に基づく)に削減することが合意されている。93年1月、米露間において署名された第2次戦略兵器削減条約(START II)は、START Iの削減過程を加速化し、2003年までに米露それぞれの戦略核弾頭数を現在の水準の約3分の1にまで削減し、また、戦略的安全性を最も損なうとされている多弾頭大陸間弾道ミサイルの全廃に合意していることが大きな特徴である。START IIの発効はSTART Iの発効を前提としており、米露両国ともSTART IIの批准を行っていない。
(注1)  賛成163、反対0、棄権8(決議文はP229参照)
(注2)  化学兵器禁止条約(CWC):化学兵器の開発、生産、保有などの禁止と並んで保有する化学兵器及び化学兵器生産施設の廃棄、化学産業に対する厳格な検証制度、さらには、条約違反の疑いがある場合には、締約国の要請により、他の締約国において、いつ、いかなる施設に対しても査察を行うことができる制度(チャレンジ査察)などを規定。化学兵器を有する国は、条約発効後10年以内に化学兵器の全廃を義務づけられている。
(注)    化学兵器禁止機関(OPCW):化学兵器禁止条約の実施を確保し、締約国間の協議及び協力のためハーグに設置される機関。この機関の技術事務局が締約国への査察の実施にあたる。
(注1)  原子力専用品についてはロンドン・ガイドライン・パート1で、原子力・非原子力の両分野に使用される品目については同パート2で規制。パート2の事務局は日本の在ウィーン国際機関代表部が引き受けている。
(注2)  協議に参加しているのは旧ココム参加国(日本を含む)及び同協力国であった23か国。