第2節 軍縮問題
79年末に発生したアフガニスタン問題を契機とする厳しい国際情勢が,ジュネーヴの軍縮委員会及び国連における軍縮問題の審議及び交渉にも少なからぬ影響を与えた。
1. 軍縮委員会及び国連における軍縮討議
(1) 軍縮委員会(CD)
軍縮委員会の構成については,80年2月から中国が参加した結果,すべての核兵器国(米,英,ソ,仏,及び中)が初めてジュネーヴの軍縮委員会の場に会することとなった。
80年の軍縮委員会においては,前半会期に主として手続事項を審議,採択した後,後半会期に核実験禁止,核軍縮,非核兵器国の安全保障,化学兵器禁止,新型大量破壊兵器及び放射性兵器禁止,また80年から議題に加えられた包括的軍縮プログラムの各問題について一般的な審議がなされた。
特に非核兵器国の安全保障に関する作業部会に加え,80年から包括的軍縮プログラム,放射性兵器及び化学兵器に関しても作業部会が設置され,各分野につき,より具体的な審議を行い得る枠組みが整えられた。
なお,包括的核実験禁止に関する米・英・ソ3国間交渉の第4回経過報告及び化学兵器禁止に関する米ソ間交渉の第2回共同経過報告が提出された。
(2) 第35回国連総会
第35回国連総会においては,前総会を上回る40余件の軍縮関係決議が採択されたものの,内容的には前年の決議のフォローアップが大部分であった。(わが国は,包括的核実験禁止,化学兵器,信頼醸成措置など四つの決議の共同提案国となった。)
なお,グロムイコ=ソ連外相が一般討論演説で提唱した「戦争の危険軽減に関する提案」については,非同盟諸国を含む多くの国が消極的姿勢を示したため事実上撤回された。
また,同総会の決議に基づき,82年に開催予定の第2回国連軍縮特別総会の準備委員会の設置が決定されたが,わが国は,インドなどとともに,アジア・グループの準備委副議長国として同グループの承認を得た。
(3) 国連軍縮委員会(UNDC)
国連軍縮委員会は,80年5~6月,国連本部において開催され,(イ)「第2次軍縮の10年の宣言に関する決議案の要素」,(ロ)核及び通常軍備競争と軍縮交渉,(ハ)軍事費凍結及び削減の3議題が審議された。
2. 主要軍縮問題
(1) 包括的核実験禁止(CTB)問題
(イ) 77年以来続けられてきているCTB(Comprehensive Test Ban)に関する米・英・ソ3国間交渉について,英国が80年7月31日の軍縮委員会において経過報告を行った。同報告の内容は,あらゆる核兵器実験の禁止(CTB条約に規定する。),平和目的核爆発実験の停止(CTB条約付属議定書に規定する。),現地査察,国際地震探知検証制度の利用などについて大筋の合意に達したが,検証問題を含む未合意の重要な問題が残されているとするものであった。
(ロ) 軍縮委員会においては,非同盟諸国などがCTB条約作成のための多数国間交渉の即時開始及びそのための作業部会設置を要求したが,右設置については合意が得られるには至らなかった。
(ハ) わが国はCTBの早期実現を期待する立場から,80年の第35回国連総会においては軍縮委員会の81年会期冒頭にCTB作業部会設置を求める決議を支持するとともに,81年2月の軍縮委においても右設置の実現を強く訴えた。また,軍縮委員会の枠内で実施中の地震専門家グループによる国際的地震探知データ交換制度の技術的検討作業には,わが国専門家が,引続き積極的に貢献した。とりわけ,わが国が提唱してきた国際的地震データ交換の実験的実施が,80年秋,わが国,米,英,豪,スウェーデンなど14カ国の参加の下に行われた。
(2) 核不拡散問題
(イ) わが国は核不拡散体制強化のためには,核兵器不拡散条約(NPT)の普遍的加入の達成が重要であるとの観点から,未加入国の条約加入促進を呼びかけてきた。バルバドス,トルコ,エジプトが新たに加入し,81年3月現在の締約国数は114カ国となった。
なお,80年5月ヴィエトナム社会主義共和国が米国(寄託国)に対し,サイゴン政府が締結した条約,その他の国際約束に拘束されない旨申し入れた結果,ヴィエトナムはNPTの締約国リストから削除された。
(ロ) NPT第2回再検討会議が条約の実施状況を検討するため80年8月11日から9月7日までジュネーヴで開催された。この会議には米・英・ソを含む75カ国が参加し,わが国からは大川軍縮代表部大使,矢田部科学技術担当官房審議官を代表とする代表団が参加した。
会議の議長にはイラクのキッタニ外務次官が選出され,わが国など26カ国が副議長国に選出された。一般演説では各国ともNPTの維持,強化の重要性を強調した。条約の実施状況についての逐条審議及び最終文書の起草作業は,核軍縮関係と原子力平和利用関係の二つの委員会に分かれて行われ,第3回再検討会議の85年開催を含む手続的な内容の最終文書を採択して閉会した。
(3) 化学兵器禁止問題
80年の軍縮委員会においては,本件作業部会が設置され,禁止対象,検証など本件条約に含まれるべき事項の検討を行ったほか,米ソ間交渉に関し第2回共同経過報告が提出された。
(4) 特定通常兵器の使用の禁止又は制限問題
80年9~10月,不必要な苦痛を与え,又は無差別の効果を及ぼすと思われる特定通常兵器(X線で探知困難な破片兵器,地雷及びブービートラップ,焼夷兵器など)の使用の禁止又は制限に関する第2回国連会議が開催された。
同会議においては,基本条約及び上記各兵器ごとの三つの選択的議定書がコンセンサスで採択された。
(5)放射性兵器(RW)禁止問題
放射性兵器禁止条約作成作業については,軍縮委員会の80年会期から作業部会が設置され,実質審議が開始された。