北米関係 |
わが政府は平和条約第十五条(a)の規定に基づき、連合国人に対し、戦争中わが国内にあつて敵産管理等戦時特別措置に付せられた財産を返還し、またその財産が戦争の結果返還不能になり、または損害を蒙つた場合には、これを補償する義務を負つているが、右のうち米国およびカナダ関係財産の返還はすでに完了している(米国関係昨年六月六日、カナダ関係一昨年二月十一日)。
他方連合国財産の補償に関しては、関係法規の解釈、事実の認定、補償額の計算方法などについてわが国と連合国側との間に見解の相違がある場合があり、それが両国間の話合によつても解決しないときには、「日本国との平和条約第十五条(a)に基いて生ずる紛争の解決に関する協定」に基づき、両国政府がそれぞれ単独に任命する各一名の委員に両国政府の合意により任命される第三の委員を加えた三名の委員によつて構成される財産委員会に、問題の最終的解決のため付託しうることになつている。
右規定により日米財産委員会が設置せられ、日本側委員には西村熊雄元特命全権大使が、米側委員にはライオネル・サマーズ東京駐在米国総領事が、また日米両国政府の合意によつて任命せらるべき第三の委員にはアンダース・トーステン・サレン在ベルリン最高返還裁判所(Supreme Restitution Court)長官がそれぞれ任命された。同委員会には合計十七件(前号八○頁記載の四一件中、一〇件はその後解決され、残る三一件の案件は後述の理由により米側請求者数をとつて一七件となつた)が付託され、昨年二月より書面審理が開始されている。右審理は本年四月上旬終了する見込であるが、同三月には書面審理を終つた案件より口頭弁論に入り、本年六月には前記案件が最終的に解決される予定である。
なお日加間にも一旦財産委員会が設置せられたが、同委員会に付託された五件(前号八○頁記載の四件に対し、支払手続中であつた一件が追加され、その後五件となつた)の案件は、書面審理の段階に入る前に、日加両国政府代表間の話し合いで解決し(請求額合計七九、八九一千円に対し、支払額五九、〇六二千円)、日加財産委員会は昨年十一月解散された。
本年一月末現在における米国およびカナダ関係連合国財産補償処理状況は左表のとおりである(金額単位干円)。
[注] 米国関係件数が前号(第三号八〇頁参照)よりも一四件減少しているのは、財産委員会付託案件の中株式関係事案につき、日本側会社数をとるか、米側株主数をとるかによつて件数が異なるところ、わが国側では当初前者の数をとつていたが、書面審理の段階に入つて米国側は後者を単位として審査請求書を提出したので、わが国側も後者の数をとることとしたことによる。
平和条約第十八条は太平洋戦争以前に生じた債務の支払いについてのわが国の義務を規定している。この規定に基づき日華事変中に生じたクレームとして米国から六件(ただし内二件については客年却下の旨回答)カナダから三件が提出されている(請求額、米加合計約一億四千万円)。
これらのクレームはいずれも発生以来相当の日時が経過しており、また証拠とすべきものが滅失している場合が少くないので、審査は困難を極めているが、わが政府としては平和条約の精神およびに関係国との友好関係にかんがみ、これが解決のため関係当局者の間で鋭意検討中である。
昨年四月日米両国政府間に生産性向上計画に関する協定が締結されたが、爾来この計画の重要な事業として、海外諸国との技術交流が行われることとなつた。昨年においても、前年に引続きわが国の経営者、技術者、労働代表等が多数米国または西欧諸国に派遣されて、これら諸国の国内諸産業を視察したほか、米国からは専門家が招へいされ、また技術資料の提供をも受けてきた。
わが国における生産性向上計画の実施機関は、財団法人日本生産性本部(会長足立正氏)であるが、これらの技術交流事業は前記の政府間協定に基づいて実施されるものであつて、資金は米国の対日技術援助資金と国内資金(政府および民間)から醵出されている。
一九五九および六〇各米会計年度における米国の右援助額はそれぞれ二五〇万ドルおよび二〇〇万ドル、昭和三十四年度の本計画国内資金は約七億二千万円であるが、昨年(歴年)中に本計画によつて米国に派遣されたわが国の視察団は、一般経営者関係三九チーム三八二名、中小企業関係一三チーム一四〇名、労働団体関係一〇チーム八〇名、農林関係一九チーム一二〇名、計八一チーム七二二名に達した。
なお、本計画開始以来一九六〇米会計年度までの米国の援助額累計は、約一、〇七〇万ドル、昨年までに米国に派遣された視察団は、約二四〇チーム二、三〇〇名に達している。
わが国は、一九五二年五月九日東京において日米加三国の間に署名された「北太平洋の公海漁業に関する国際条約」に基づき、同条約附属書に明記されている北米系のおひょう、にしんおよびさけ・ます(西経一七五度以東の水域のもの)の漁獲を自発的に抑止する義務を負つているが、同条約により設立されている北太平洋漁業国際委員会は、(イ)条約附属書に列記されている魚種が条約第四条一(a)の自発的抑止の条件を備えているかどうかを決定すること、および(ロ)条約附属議定書に基づき、アジア系さけ・ます(本来わが国がその漁獲を自発的に抑止する必要のないもの)と北米系さけ・ますとを最も衡平に分つ線が現在の暫定抑止線(西経一七五度)であるかどうかを研究し決定すること、などの任務を負つている。
右委員会の第六回定例年次会議は昨年十一月米国シアトルにおいて開催(各種小委員会は十月よりヴァンクーヴァおよびシアトルにおいて開催)たが、同会議においては次の審議が行われた。
(イ) 自発的抑止に関し、
日本側は、条約附属書に列記されているいずれの魚種についても米加により抑止条件を満しているという証明はなされていないと主張したのに対し、米加は、アラスカにしんを除き抑止条件は合理的な程度に満されているとの立場をとつた。結局アラスカにしんについては、三カ国一致で条約第四条一(a)の自発的抑止の条件を備えていないと決定され、それを条約附属書から削除すべきことを締約国政府に対して勧告したが、附属書に記載されているその他の魚種については、三カ国の間で同意に達しなかつた。
(ロ) 暫定抑止線に関し、
米国は、一九五七年ヴァンクーヴァーにおける委員会第四回定例年次会議以来、暫定線西側の近接水域におけるわが国の沖合さけ・ます漁業が北米系さけ・ます就中ブリストル湾のべにざけ資源に著しい悪影響を与えているとして、暫定抑止線を西方へ移行せしめることを繰返し主張しているが、これに対してわが国は、水産資源に大きく依存する海洋国として、もとより漁業資源の合理的保存には深い関心を有しており、必要な保存措置を考慮するにやぶさかではないが、米国側の主張には科学的根拠がないという立場を取つている。同会議の生物学調査小委員会における三国科学者の討議の結果として、両大陸系のさけ・ますが暫定線の東西に亘り混合している範囲がほぼ明らかとなつたが、その量的分布、変動、変動要因などについては決定は行われなかつた。委員会は、また各締約国政府に対して条約附属議定書の意図の解釈を求める勧告を採択し、さらに昨年東京において開催された第五回定例年次会議において採択された北太平洋における漁業資源の保存決議を再確認した。
近年わが国の都市と米国の都市との間に都市相互間の文化の交流ならびに観光、貿易等の振興を目的とする提携が行われている。その成立数は一九五五年一件、同五六年一件、同五七年五件、一昨年五件、昨年九件と漸次増加しつつある。またこの提携は当初は大都市ないしは国際的に有名な都市相互の間に行われていたが、次第に地方の中小都市の間にも広まつている。
本年二月二十二日現在判明している提携の現状は次のとおりである。
日米両国都市提携状況(昭和三五年二月二十二日現在)
日本側都市(県)名 米国側都市(州)名 発足年月日
1 長 崎 市 セントボール市(ミネソタ) 昭和三〇、一二、二四
2 横 浜 市 サンディエゴ市(カリフォルニア) 〃 三一、一〇、二九
3 仙 台 市 リヴァーサイド市(カリフォルニア) 〃 三二、 三、二九
4 岡 山 市 サン・ノゼ市( 〃 ) 〃 三二、 五、二五
5 三 島 市 パサデイナ市( 〃 ) 〃 三二、 八、一五
6 大 阪 市 サンフランシスコ市( 〃 ) 〃 三二、一〇、 七
7 神 戸 市 シアトル市(ワシントン) 〃 三二、一〇、二一
8 下 田 市 ニューボート市(ロードアイランド) 〃 三三、 五、一七
9 館 山 市 ペリンハム市(ワシントン) 〃 三三、 七、一一
10 有田町(佐賀) アラメダ市(カリフォルニア) 〃 三三、 七、一〇
11 甲 府 市 デモイン市(アイオワ) 〃 三三、 八、一六
12 松 本 市 ソールトレーク市(ユタ) 〃 三三、一一、二九
13 藤 沢 市 マイアミビーチ市(フロリダ) 〃 三四、 三、 八
14 清 水 市 ストックトン市(カリフォルニア) 〃 三四、 三、 九
15 長 野 市 クリアウォーター市(フロリダ) 昭和三四、 三、一四
16 名 古 屋 市 ロスアンゼルス市(カリフォルニア) 〃 三四、 三、三一
17 広 島 市 ホノルル市(ハワイ) 〃 三四、 六、一五
18 京 都 市 ボストン市(マサチュセッツ) 〃 三四、 六、二四
19 小 倉 市 クコマ市(ワシントン) 〃 三四、 七、 二
20 札 幌 市 ポートランド市(オレゴン) 〃 三四、一一、一七
21 立 川 市 サン・バーナディノ市(カリフォルニア) 〃 三四、一二、二三
22 東 京 都 ニューヨーク市(ニューヨーク) 話 合 中
23 福 岡 市 クリーヴランド市(オハイオ) 〃
24 門 司 市 ノーフォーク市(ヴァージニア) 〃
25 御 殿 場 市 チェンバースバーグ市(ペンシルヴァニア) 〃
26 伊 勢 市 ナイヤガラ・フォールズ市(ニューヨーク) 〃
27 青 森 市 チャタヌーガ市(テネシー) 〃
28 久慈市(岩手) フランクリン(インディアナ) 〃
29 大 宮 市 ダーラム市(ノースカロライナ) 〃
30 富田林市(大阪) ベスレヘム市(ペンシルヴァニア) 〃
31 山 梨 県 アイオワ州 〃
32 岐 阜 県 カンサス州 〃
33 高 知 県 インディアナ州 〃
右の話合中のもののうち東京都とニューヨーク市の提携は、本年二月二十六日東京都知事とニューヨーク市長が書簡を交換することによつて正式に成立した。なお、門司市・ノーフォーク市、青森市・チャタヌーガ市、山梨県・アイオワ州については正式の提携表明は行われていないが、すでに種々の交歓が行なわれている。
米軍に提供されている施設、区域の数は、逐次減少の傾向にあり、昨年十二月一日現在の総数二五五件のうち主なもの(兵舎、飛行場、演習場等)は三七件で、その他は事務所、倉庫、住宅、工場等である。
この件数は一昨年十二月一日現在の総件数二九二件に比べると、三七件の減少となつている。また近く解除されることが確定したものおよび解除が予想される施設件数は約十三件であり、このうち主なものとしては北海道演習場および東京地区のパーシング・ハイツ、チャペル・センター、ハーディー・バラックス等がある。
なお平和条約発効以来の解除件数は二、五六九件で、これを提供土地面積について比較すれば、平和条約発効当初は民公有、約二億坪、国有約二億一千坪であつたものが、現在では民公有約四千万坪、国有約六千一百万坪となつている。
在日米軍の中、現在陸軍は戦斗部隊を保有せず、東京、神奈川を中心として約五、〇〇〇名が管理補給の任に当つており、司令部は座間にある。海軍関係としては、艦艇若干と、艦隊および海兵のそれぞれの航空隊および基地部隊約一万五千名が横須賀、佐世保、厚木、岩国、追浜等に駐留し、横須賀に海軍司令部がある。また空軍は、第五空軍の主力約三万二千名が、三沢、横田、立川、入間川、板付、芦屋等に分駐し、府中に司令部がある。
右在日米三軍の総数は約五万二千名であり、第五空軍司令官が在日米軍司令官として全兵力を指揮している。今後ともわが国の防衛力の整備に伴なつて、在日米軍の数は逐次減少の方向にある。
W・H・ドレイパー米国軍事援助計画調査大統領委員会委員長は、米国の軍事援助計画調査のため昨年二月二日来日し、岸総理大臣、藤山外務大臣、伊能防衛庁長官に表敬の上、二月六日京城向け離日した。
F・A・シートン米国内務長官はICA資金をもつてカンボディアに建設されたハイウェーの開通式に参加の帰途昨年七月二十六日来訪し、外務、農林および通商産業各大臣と会談、同月二十八日帰国した。
N・H・マケルロイ米国国防長官は、在日米軍当局者等と会談するため昨年九月二十四日来日し、岸総理大臣および赤城防衛庁長官に表敬の上、九月二十八旦京城向け離日した。