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2012年度米国予算教書(概要)
平成23年2月15日
2月14日,オバマ大統領は,2012会計年度(2011年10月~2012年9月)の予算教書を議会に対して提出したところ,概要以下のとおり。
(注)予算教書*iとは,米大統領が議会に示す予算の編成方針。一般教書*ii,大統領経済報告と並び「3大教書*iii」と呼ばれ,毎年2月初めに議会に提出される。
<要旨>
- 2012会計年度の歳入は2兆6,270億ドル,歳出は3兆7,290億ドル,財政赤字は1兆1,010億ドル(GDP比7.0%)となる見通し。
- 2011会計年度(2010年10月~2011年9月)の歳入は2兆1,740億ドル,歳出は3兆8,190億ドル,財政赤字は1兆6,450億ドル(GDP比10.9%)となり,過去最高であった2009会計年度の1兆4,130億ドル(GDP比10.0%)の財政赤字を上回る見通し。
- これは,歳入が微増(前年度比110億ドル増)にとどまる一方で,社会保障・医療関連費その他の義務的経費や軍事費の増加により,歳出が大幅増(前年度比3,630億ドル増)となることが主因。
- 他方,2012会計年度においては,更なる経済回復に伴う税収増(特に個人所得税及び法人税)及び社会保障税減税の失効により歳入が大幅に伸びる(前年度比4,530億ドル増,対前年度比20.8%増)一方,義務的経費,裁量的経費についても,景気対策の失効等によりそれぞれ540億ドル,760億ドル減少。引き続き高い水準ではあるものの,財政赤字は大幅に削減され,1兆1,010億ドル(GDP比9.2%)となる見通し。
- 2013会計年度の財政赤字は7,680億ドル(対GDP比4.6%)であり,大統領就任時に引き継いだ財政赤字(対GDP比9.2%)を任期終了時に半減させるとの目標については堅持。
- 政府は10年間で2兆1,820億ドルの財政赤字削減策を提案しているが,このうち1兆900億ドルの海外活動費の削減の寄与度が大きい。その他の部分のうち,歳入,義務的経費関連提案により10年間で約5,400億ドル,非安全保障関連裁量的経費の5年間凍結により10年間で約4,000億ドル,それぞれ財政赤字が削減されるとしている。
- ただし,提案内容のうち主要なものについても,実現が困難と考えられるものや,曖昧なものも多く,今後の政権運営に向けて多くの課題を残したものと言える。
- なお,国債残高(対GDP比)については,2010年度末の9兆190億ドル(62.2%),2011年度末の10兆8,560億ドル(72.0%)から,2021年度には18兆9,670億ドル(77.0%)へと上昇する見通し。
1. 2012年度予算案(歳入)
歳入: 2兆6,270億ドル

2. 2012年度予算案(歳出)
歳出: 3兆7,290億ドル

3. 財政見通し・経済見通し
(1)財政収支見通しは以下のとおり。
財政収支見通し
| |
予算教書見通し |
(備考)年央レビュー見通し |
| 総額 |
GDP比 |
総額 |
GDP比 |
| 2010年度 |
▲1,293 |
▲8.9% |
▲1,471 |
▲10.0% |
| 2011年度 |
▲1,645 |
▲10.9% |
▲1,416 |
▲9.2% |
| 2012年度 |
▲1,101 |
▲7.0% |
▲911 |
▲5.6% |
| 2013年度 |
▲768 |
▲4.6% |
▲736 |
▲4.3% |
| 2014年度 |
▲645 |
▲3.6% |
▲698 |
▲3.8% |
| 2015年度 |
▲607 |
▲3.2% |
▲762 |
▲4.0% |
| 2016年度 |
▲649 |
▲3.3% |
▲758 |
▲3.8% |
| 2017年度 |
▲627 |
▲3.0% |
▲721 |
▲3.4% |
| 2018年度 |
▲619 |
▲2.9% |
▲749 |
▲3.4% |
| 2019年度 |
▲681 |
▲3.0% |
▲822 |
▲3.6% |
| 2020年度 |
▲735 |
▲3.1% |
▲900 |
▲3.8% |
| 2021年度 |
▲774 |
▲3.1% |
‐ |
‐ |
- 2011年度においては,歳入について微増にとどまる(前年度から110億ドル増)一方で,社会保障・医療関連費その他の義務的経費や軍事費の増加により,歳出が大幅増(前年度から3,630億ドル増)となることから,財政赤字は過去最高水準の1兆6,450億ドル(対GDP比10.9%)となる見込み。
なお,昨年7月の年央レビューとの比較では歳入見積りが約2,500億ドル減少しており,これが財政赤字見積り額の増大に寄与。
- 2012年度においては,更なる経済回復に伴う税収増(特に個人所得税及び法人税)及び社会保障税減税の失効により歳入が大幅に伸びる(前年度から4,530億ドルの増,対前年度比20.8%増)一方,義務的経費,裁量的経費についても,景気対策の失効等によりそれぞれ540億ドル,760億ドル減少。引き続き高い水準ではあるものの,財政赤字は大幅に削減され,1兆1,010億ドル(対GDP比7.0%)となる見積り。
- 2013年度の財政赤字は7,680億ドル(対GDP比4.6%)であり,大統領就任時に引き継いだ財政赤字(対GDP比9.2%)の半減目標については堅持。
- 2015年度以降の財政収支については,昨年の予算教書,年央レビューに比べて財政赤字規模が縮小しており,毎年ほぼ対GDP比 -3%前後で推移する見通しとなっている。但し,2015年の基礎的財政収支は1,120億ドルの赤字と,超党派財政委員会において目標とされていたプライマリーバランス均衡は達成されていない。
- 政府は10年間で2兆1,820億ドルの財政赤字削減策を提案しているが,このうち1兆900億ドルの海外活動費(OCO,テロ対策戦費)の削減の寄与度が大きい。
その他の部分のうち,歳入,義務的経費関連提案により10年間で約5,400億ドル,非安全保障関連裁量的経費の5年間凍結により10年間で約4,000億ドル,それぞれ財政赤字が削減されるとしている。
- 但し,提案内容のうち主要なものについても,以下のように実現が困難と考えられるものや,曖昧なものも多く,今後の政権運営に向けて多くの課題を残したものと言える。
- ブッシュ減税の高額所得者への期限切れ等の措置(遺産税含め,10年間で約9,500億ドル。ベースラインに既に盛り込まれているが,共和党の反対が強い)
- 代替ミニマム税の軽減措置3年間延長のための財源とされる高額所得者への項目別控除の一律30%削減措置(10年間で約3,200億ドル。上記同様共和党の反対が見込まれる)
- 2014年以降のメディケア診療報酬の減額を回避するための医療費削減措置(10年間で約3,150億ドル,具体的措置は今後の検討に委ねられている)

- なお,国債残高(対GDP比)については,2010年度末の9兆190億ドル(62.2%),2011年度末の10兆8,560億ドル(72.0%)から,2021年度には18兆9,670億ドル(77.0%)へと上昇する見通し。
(2)経済見通しは以下のとおり。
【経済見通し(暦年ベース)】
| |
2009 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2021 |
| 実質成長率 |
-2.6% |
2.7% |
2.7% |
3.6% |
4.4% |
4.3% |
3.8% |
2.5% |
| 名目成長率 |
-1.7% |
3.8% |
4.0% |
5.2% |
6.1% |
6.1% |
5.6% |
4.3% |
| CPI |
-0.3% |
1.6% |
1.3% |
1.8% |
1.9% |
2.0% |
2.0% |
2.1% |
| 失業率 |
9.3% |
9.6% |
9.3% |
8.6% |
7.5% |
6.6% |
5.9% |
5.3% |
【経済見通しの比較】
| |
|
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
| 実質成長率 |
予算教書 |
2.7% |
2.7% |
3.6% |
4.4% |
4.3% |
3.8% |
| 年央レビュー(昨年7月) |
3.2% |
3.6% |
4.2% |
4.2% |
4.0% |
3.6% |
| CBO(本年1月) |
2.8% |
2.7% |
3.1% |
|
|
|
| Blue Chip(本年2月) |
|
3.2% |
3.3% |
|
|
|
| 失業率 |
予算教書 |
9.6% |
9.3% |
8.6% |
7.5% |
6.6% |
5.9% |
| 年央レビュー(昨年7月) |
9.7% |
9.0% |
8.1% |
7.1% |
6.3% |
5.7% |
| CBO(本年1月) |
9.6% |
9.4% |
8.4% |
|
|
|
| Blue Chip(本年2月) |
|
9.3% |
8.6% |
|
|
|
(注)CBO: Congressional Budget Office(議会予算局)
- 2011年の実質成長率を2.7%,失業率を9.3%と見込む。昨年7月の年央レビューと比較し,2012年までの成長率を下方修正し,他機関による予測とのかい離は縮小。失業率についてもより緩やかな回復を想定。
- 他方,長期的には実質成長率を2.5%程度としているものの,2013~2015年頃については,依然として実質成長率4%前後,名目成長率6%前後を見込んでおり,景気回復時に一時的に成長率が高くなるとの前提は堅持。
4. 財政再建(「持続可能な財政針路への回帰」)
(1)財政規律の回復
- 非安全保障裁量的経費の凍結を今後3年間から5年間に延長
2010年度予算水準を基準として今後5年間の同経費を凍結。
一律削減を行うものではなく,経済成長・雇用創出に重要な分野は残しつつ,その他のプログラムの削減を行う。これにより,10年間で4,000億ドルを節減。
- 連邦政府職員(非軍人)の給与を2年間凍結
2011年からの2年間給与凍結について既に立法済。今後10年間で600億ドルの節減効果。
- プログラムの廃止・統合
過去2年間の予算教書でも120のプログラムについて「廃止,削減及び節約」を提言し,各年約200億ドルの節減を図ったところ,今回は200のプログラムの「廃止,削減及び節約」を提言。2012年度において300億ドルを節減。
- 軍事費における新たな規律
国防省による削減努力により,2011年度予算に比べ,今後5年間で780億ドル(2012年度で130億ドル)の節減を達成。
- 石油・ガス・石炭等の鉱物開発への課金システムを改革
- ひも付き歳出の廃止
ひも付き歳出を含む法案が大統領のもとに送付された場合,拒否権を行使。
- 金融サービス産業に納税者資金の返却を要求
TARP(Troubled Asset Relief Program: 不良資産救済プログラム)に係る予想損失額は480億ドルまで低減したが,資産規模500億ドル超の金融機関に対し,TARPに係るコストを回収するまで金融危機責任負担金(Financial Crisis Responsibility Fee)を徴収する。今後10年間で300億ドルの歳入を生む見込み。
(2)長期的財政課題への取組み
- 将来債務を削減するために今必要な措置
財源が措置されていない将来債務の発生が見込まれる領域において責任を回復するための一歩を提言。
- 医療費増大の抑制のための努力継続
医療費は利払いを除く連邦歳出の1/4を占め,将来の赤字増の主要因。医療費増大を抑制するためオバマケア法を公正・効率・迅速に実施することに堅くコミットすると共に,追加的施策を提言。
- 税制改革に向けた手付金の支払い
超党派財政委員会による作業を土台として税制改革に向けたプロセスを開始するよう議会に要求。このため,下記を提案。
- 簡素化し,特殊利益のための抜け穴を廃止し,競争条件を均一化し,財政赤字を拡大することなく税率を引き下げる法人税改革のため,政府と協力することを議会に要請。
- 世帯所得25万ドル以上の高所得者に対するブッシュ減税の更なる延長には反対。遺産税については2009年水準への回帰を支持。
- 高所得者に対する項目別控除を一律30%削減することにより,代替ミニマム税の軽減措置の3年間継続に係る費用を相殺。なお,2014年以降も相殺を続けた場合には10年後の財政赤字を対GDP比で1%削減する効果。
- 公的年金の保全
議会に対し,公的年金制度の強化のために超党派で協力することを要求。
(3)効果的・効率的な政府の構築
- 不適切支払いの削減による500億ドルの節減
- 不要または活用度が低い政府保有資産の売却促進
- 今後数カ月の間に,米国の競争力を高めるという目標に資するような連邦政府機関の合併,統合,改組案を策定。
- 旅費,印刷,消耗品費等の一般管理費削減による20億ドルの節減
- 交通,職業訓練等の分野の補助金への州間競争原理の適用
- 契約における無駄の排除努力の継続
- プログラム・パフォーマンス測定努力の継続
- 連邦政府におけるIT活用方法の改善
- 各省庁における具体的目標の明示化
5.今後の政策(「世界経済で競争し勝ち抜くために」)
(1)競争力のある人材を目指した教育
- 幼児の教育水準向上を目的とした基金を設立
- 高い基準を設定して改革を促進し,目的達成に報いることで,小中学校におけるファンディングを改革
- 今後10年に向け,科学,テクノロジー,エンジニア,数学分野での教師を10万人雇用。予算は8,000万ドルを計上し,(10万人のうち)1万人は今後2年間で採用
- より多くの国民に大学入学への門戸を開放。2008年以降増額した奨学金(Pell Grant)を維持
- 競争力ある人材を育てるなど,職業訓練の新しいアプローチ促進
(2)米国における革新に対する投資
その他,特許システムの改善,新しい経済成長分野の創設等に言及
(3)21世紀型のインフラを構築
- 歴史的な規模となる5,560億ドルの地上交通における再投資を立法し,その資金の配分をより妥当なものにする
- 道路や鉄道,滑走路などへの500億ドル前払い投資により,雇用を創出する。
- 25年以内に国民の80%が(高速)鉄道システムに簡単にアクセスできるようにする。今後6年で530億ドルの予算を計上している
- 今後6年で国家インフラバンクに300億ドル拠出
- PAYGO(Pay-As-You-Go)原則に準じており,この地上交通の再投資パッケージに資金拠出することは,財政赤字の拡大を伴わない
- 遅延が減少し,安全性が向上する21世紀型の航空システムを創設
- エネルギー効率的で,信頼性の高い電子輸送インフラに投資
その他,水資源インフラへの投資等に言及。
(4)対外的な市場開放と米国と安全確保
その他,航空輸送システムの保護,軍隊及びその家族の支援等に言及。
*i 米国では,議会に予算編成権があり,また,行政府には法案提出権がないため,議会が歳入,歳出に関する予算関連法案を独自に作成して審議する。したがって,通常予算教書は議会に対する大統領の提案にとどまり,何ら拘束性を有していない。このように,予算教書は法的には参考資料程度の意味しかないが,実際上は問題のない部分はそのまま受け入れられる。また,議論の余地がある部分についても歳出法案について大統領が拒否権を行使することができるため,議会とホワイトハウスとの交渉により予算教書の内容を歳出法案にかなり反映させているのが実情である。
*ii 1月25日の一般教書演説において,オバマ大統領は優先課題である雇用創出の実現のため,クリーンエネルギーをはじめとするイノベーション,教育及び高速鉄道を含むインフラへの投資を促進する方針を示すとともに,2014年までの輸出倍増計画に改めて言及したほか,国内雇用に資する貿易協定の追求,国内の制度・規制の見直し等にも言及。また,今後5年間の国内支出の凍結等,財政再建,医療保険制度改革,税制改革等をはじめ,主要な国内課題に対処する強い意思を示した。
| 種類 |
内容 |
| 一般教書 |
上下両院に外交や内政情勢を報告し,今後1年間の施政方針を表明(1月25日に実施) |
| 予算教書 |
来年度予算案の編成方針を大統領が議会に提示 |
| 大統領経済報告 |
当面の経済情勢に関する判断を示す(CEA(大統領経済諮問委員会)が作成)) |