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北朝鮮側「備忘録」について

平成17年2月10日

1.総論

(1)「備忘録」において示された北朝鮮側の見解は、専ら北朝鮮側が横田めぐみさんの「遺骨」であるとした骨片に関する日本政府の鑑定結果に対する反論であり、その内容は、昨年12月25日に日本政府が行った申し入れに対して殆ど全く答えていない。我が方は、北朝鮮側が生存する拉致被害者たちを直ちに帰国させると共に、全ての安否不明の拉致被害者に関して真実を早急に明らかにするよう、改めて強く要求する。

(2)日本側における「遺骨」とされたものの鑑定の結果は、日本の刑事訴訟法等の法令に基づく厳格な手続きに従い、日本で最も権威ある機関の一つが実施した客観的かつ科学的な鑑定に基づくものである。北朝鮮側が「備忘録」において、この鑑定結果を「捏造」と断言していることは、鑑定手続の厳格さや、DNA鑑定の技術水準に関する現実を少しも認識していないことを表しており、我が方としてはこのような北朝鮮側の見解は全く受け入れられないものであることを明確にしておく。北朝鮮側が如何に抗弁しようとも、「遺骨」とされたものの一部から横田めぐみさんではない全く別人のDNAが検出されたことは明白な事実であって、北朝鮮側の説明が虚偽であったという日本政府の結論を否定することは不可能である。

(3)「備忘録」は、「拉致問題が、日本政府の一貫した反共和国敵視政策とそれによる我が人民の激高した反日感情を背景として生じたということを考慮するとき、日本政府にも問題の責任がある。」としている。しかし、拉致こそは、北朝鮮側が無辜の日本人に対して一方的に加えた非人道的行為そのものであり、この問題については専ら北朝鮮側が責めを負うべきであることについては、日朝平壌宣言においても明らかである。
 日本政府としては、「日朝平壌宣言に則り、諸懸案を解決し、日朝国交正常化を実現する」との原則を引き続き堅持していく方針であり、この点については、小泉総理も累次の機会に述べている。拉致問題の真相の徹底究明は、金正日国防委員長が自ら約束したことであるので、北朝鮮側が、その約束どおり、誠意をもって、迅速にかつ日本側が納得のいく対応を行うことをあらためて要求する。昨年12月25日に既に北朝鮮側に伝えてあるとおり、引き続きそのような対応が無い場合、我が方として「厳しい対応」をとらざるを得ないことを改めて伝達する。 (4)我が方としては、北朝鮮側が希望するのであれば、「備忘録」に対する我が方の反論について、実務者レベルで直接説明するにやぶさかではない。

2.個別論点

 「備忘録」において北朝鮮側が取り上げた個別の点に対する我が方の見解は以下のとおりである。

(1)鑑定結果の扱い

(イ)「備忘録」は、「東京歯科大学も骨片が微細なため鑑定が困難だという立場を表明した。」としている。しかし、東京歯科大学がこのような立場を表明したという事実はない。北朝鮮側の主張の具体的根拠は何か示すべきである。

(ロ)「備忘録」は、「疑問点は第1に、同一の骨片(の鑑定)を依頼された科学警察研究所ではDNAを検出できなかったが、帝京大学では『結果』を得たということである。」としている。しかし、北朝鮮側に手交した12月24日付の我が方「精査結果」において明示的に説明してあるとおり、本件鑑定の嘱託先である科学警察研究所及び帝京大学には、それぞれ別の検体が鑑定嘱託されたのであり、北朝鮮側の指摘は不的確である。

(ハ)「備忘録」は、日本政府が帝京大学による鑑定結果だけを「絶対視」したとしている。しかし、日本政府は、今回の鑑定をDNA鑑定に関する最高権威である2つの機関に対して嘱託した。その科学的結果として、科学警察研究所に嘱託した検体からはDNAが検出されなかった一方で、帝京大学に嘱託した検体ではDNAが検出され、有意な結果が得られたので、その旨北朝鮮側に客観的に提示したものである。

(2)分析方法

(イ)「備忘録」は、糸粒体DNA分析方法について、「まず骨片の中に存在する細胞を採取し、その中からDNAを選別しなければ不可能」としている。しかし、骨からDNAを抽出する作業だけで十分であり、細胞を採取する必要はない。爪、垢、血痕、毛髪は、細胞を分離することなく、直接DNAを抽出できる資料としてあげられるが、骨もこれらと同様に、細胞を分離することなくDNAを抽出出来る資料である。

(ロ)「備忘録」は、「1200℃の高温で火葬された遺骨をDNA分析方法で鑑定しても、個人の識別は不可能だというのが一般的な常識である。」としている。しかし、火葬した骨の一部が熱に十分さらされなかったためDNAが残存することはあり得ることである。また、帝京大学に鑑定嘱託した骨片5個は、DNA鑑定の知見を有する専門家が、DNAを検出できる可能性がある骨片を慎重に選定したものである。

(3)鑑定結果

(イ)「備忘録」は、DNA鑑定のため使用した骨片5について、「一人の人間の遺骨のDNAを構成するヌクレオチドの塩基配列は同じ型で現れなければならないが、3種類の型で現れ、その内の骨片1個が混合型となっているというのは異常である。」とし、また、「このような結果を無理やりに受け入れたとしても、遺骨は3人、またはそれ以上の数の人間のものと考えなければならない。」とし、さらに「帝京大学の『鑑定書』に『骨片5は分析限界区域にあり、再生するうえで問題のある資料だということは明白である』と指摘されたことは、『鑑定結果』を科学的に保証できないということを物語っている。」としている。しかし、骨片5とそれ以外の4つの骨片とは異なる検体であり、前者の分析結果が後者の分析結果に影響を与えるものではない。

(ロ)「備忘録」は、「骨片5に対する1回目と2回目の分析結果が互いに異なるものとなったことは理解できない。」としている。しかし、骨片5から同検体の固有の性格から混合型のDNAが検出されている以上、2回の分析結果が相違することは、予想出来たことである。

(ハ)「備忘録」は、「1200℃の高温で燃焼した遺骨からDNA鑑定を分離するほどの精密な鑑定であるなら、骨片の表面に付着したものを鑑定する際にその遺骨を直接、手で扱った人々に対するDNAも検出されて当然と思われるが、検出されなかったということは多くの疑問を抱かせる。」としている。しかし、鑑定に際して骨片の表面を洗浄した後の洗浄液からは、DNAは検出されておらず、鑑定書には、各骨片から検出されたDNA型は骨表面に付着していた汚染物質によるものではないという客観的事実が記載されているものである。

(ニ)「備忘録」は、「これは結局、『鑑定』の信憑性を認めてもらおうとしたものであるのか、そうでなければ、横田めぐみの遺骨からDNAを検出することができなくなるや、情報機関や特定の機関の人物らが意図的に他人の骨を大学に与えて鑑定させるようにしたこともあり得るという結論に到達することになる。」としているが、「意図的に他人の骨を大学に与えて鑑定させるようにした」がごとき事実が無いことは言うまでもなく、全く的外れの主張である。

(ホ)「備忘録」は、「日本政府が我が方に送ってきた『鑑定書』には、分析者はおろか立会人の名前も明らかにされていない」ことを問題視している。しかし、昨年12月25日に日本政府が北朝鮮側に伝達したのは、鑑定書の要旨であり、分析者等の氏名は省略したものである。なお、本鑑定は、言うまでもなく日本の刑事訴訟法等の法令に基づく厳格な手続に従い行われたものであり、十分な客観性を有するものである。

(4)「遺骨」受領の経緯

(イ)「備忘録」は、日本側団長である藪中外務省アジア大洋州局長(当時)が、「彼女(横田めぐみさん)の死亡を確認し、日本人を納得させるためには彼女の遺骨を絶対に渡してほしいし、遺骨は当然、彼女の父母に伝達されなければならないため、お願いする」と述べたとし、恰も日本側が横田めぐみさんの「死亡」を前提としていたかの如く記述している。しかし、日本政府代表団は、安否不明の拉致被害者10名全員が生存しているとの立場で第3回日朝実務者協議に臨んだものである上、藪中団長は仮に北朝鮮が「死亡」したと主張するのであればその証拠をきちんと提示すべきであるとの趣旨を述べたものであり、横田めぐみさんの「死亡」を前提とする発言を行ったとの事実はない。

(ロ)「備忘録」は、「日本側団長は『横田めぐみの夫からめぐみの遺骸を私が直接受け取った。これをめぐみの両親に直接渡すということを約束し、公表しない』という内容の自筆を書面化し、署名まで行った。ところが日本側が遺骨を持ち帰ってから、公表どころではなく、東京都港区にある会館に展示し、本来土葬された遺骸をわが方が意図的に掘り出し、鑑定することができないよう火葬した、と食ってかかり、反共和国謀略策動に火をつけた。」としている。しかし、日本側代表団が平壌滞在中、北朝鮮側に対し、本件骨片は横田さん御家族に直接伝達するが、御家族の意向を踏まえ、対外公表する可能性があると説明したのに対し、北朝鮮側は何ら異論を唱えなかったことを指摘しておきたい。実際、「遺骨」受領の事実は、代表団帰国後、横田家の了解を直接得た上で公表したものである。また、「遺骨」を「東京都港区にある会館に展示」したという事実は全くない。そもそも北朝鮮側は、「備忘録」の公表に至るまで、「遺骨」受領の事実の公表(2004年11月15日)自体について何の反応も示さなかったにもかかわらず、この「備忘録」によってこの件を初めて取り上げ、あたかも何か問題があるかのような主張を展開しているが、このような北朝鮮側の対応は全く説得力に欠けるものである。

(5)キム・チョルジュン氏の人定

(イ)「備忘録」は、日本の週刊誌記事を引用する形で、「日本側団長は、2004年11月14日、横田めぐみの夫と再び会うのに先立ち、液体の粘着薬を手に塗って彼と握手し、相手の手に付着した細胞を採取した。」としているが、そのような事実は全くない。主張の根拠を示すべきである。

(ロ)「備忘録」は、日本側が「横田めぐみの夫とその子女は父と娘の間柄にない、と事実を完全に歪曲して言論界に流した。」としている。しかし、日本政府は、キム・チョルジュン氏がキム・ヘギョンさんと父娘関係にないと結論付けたこともなければ、そのような結論をマスコミに伝えたことも全くない。事実無根の主張である。

(6)遺骨の返還等

 「備忘録」は、「遺骨を増やしても減らしてもならず、原状のままで返還し、鑑定結果捏造事件の真相を徹底的に究明し、責任ある者らを厳重に処罰すべきである。」としている。しかし、まずは北朝鮮側こそ、なぜ横田めぐみさんのものとは異なる複数のDNAが検出される骨を横田めぐみさんのものと称して提供したのかについて、日本と国際社会が納得出来るきちんとした説明を行う責任を負っていることを改めて指摘したい。


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