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EU金融サービス市場統合に向けた動き
平成13年4月
EUの金融サービス市場の統合については、2001年3月のストックホルム特別欧州理事会において、賢人委員会の最終報告書(いわゆる「ラムファルシー・リポート」)が全面的に承認され、「効果的な証券市場規則に関する欧州理事会決議」が採択されました。本件に関するこれまでの経緯及び欧州証券取引所の再編の動向を以下のとおりとりまとめました。
1.金融サービス行動計画
(1)ユーロへの第一陣参加国やECB総裁人事等が固まり単一通貨導入が確定した後、カーディフ欧州理(98年6月)は、欧州委に対し金融サービス市場の改善に必要な行動の枠組みの策定を要請しました。
(2)98年10月、欧州委は「金融サービス:行動の枠組み構築」と題する文書を公表しました。これをベースに「金融サービス政策グループ」(欧州委と財務相の個人代表、ECBからなる)での議論を経て、99年5月に「金融サービス行動計画」として欧州委が公表しました。
(3)内容的にはホールセール・リテール双方の単一市場形成と監督体制・健全性規制の調和を柱とし、42項目の必要措置(各項目ごとに優先度と実施期限を明示)が提示されています。
(4)本計画については6ヶ月毎に進捗状況の報告が行われており、2000年11月の第三次中間報告書では、欧州委と理事会・欧州議会の双方について、向こう6ヶ月間に取り組むべき優先事項が提示されました(各10項目、計20項目)。このうち、17項目は現在までに実現していません。
(5)また、リスボン特別欧州理(2000年3月)において2005年初頭までに本計画の全体を完全実施することが合意され、そのために必要な立法手続きの迅速化の方法を検討するために2000年7月に経済財務相理事会において賢人委員会が設置されました(下記2.参照)。
2.賢人委員会最終報告書
(1)「金融サービス行動計画の2005年初頭の完全実施にあたっては、EUレベルの立法手続の迅速化が不可欠である」との問題意識に基づき、金融サービス市場関連の立法プロセス改善の方法を検討することを目的として、経済財務相理事会により、ラムファルシー元白中銀総裁を議長として賢人委員会(通称:ラムファルシー委員会)が任命されました(メンバーは7名、2000年7月発足)。
(2)2001年2月15日に最終報告書(通称:ラムファルシー・リポート)が提出されました。同報告書は、欧州証券市場の効率化を妨げている要因の分析と優先的に取り組むべき事項を指摘(第一章)した上で、そのために必要な立法プロセスの改革について勧告しています(第二章)。金融サービス行動計画に挙げられている優先課題で、賢人委員会も採り上げている主なものは、発行者への単一目論見書の導入、上場基準の改善、国際会計基準の導入などです。
(3)立法手続の改善については、「4段階のアプローチ」を提案しています。具体的には、以下のとおりです。
- 第一段階:規制の原則を決める手続きは欧州委・欧州議会・理事会による通常の立法手続による。
- 第二段階:より詳細な規制の実施は「欧州証券委員会」(加盟国の国務長官級の会合)・「欧州証券監督者委員会」(加盟国監督当局のトップの会合)と欧州委との協力により決定される。新たな二つの委員会については、2001年末までに作業方法とマンデートに関して合意することとされた。
- 第三段階:第一・第二段階の規制を矛盾なく実施するために証券監督者間協力を強化。欧州証券監督者委員会(ESRC)が独立機関としてチェック機能を果たす。
- 第四段階:制定された共同体ルールの各加盟国における受容状況を欧州委がチェック、必要な法的措置を講じる。
(4) ESRCについては報道等で「欧州版SEC」と紹介されたケースもありますが、欧州全域にまたがる監督当局の設立はEU条約の変更を要し、また一部加盟国の強硬な反対が予想されるため、賢人委員会報告では提案されていません(可能性として言及はされています。また、金融サービス行動計画の優先事項の中にも、統一監督機関設立に向けた指令案の策定が採り上げられています。)。
(5)本報告に対しては、欧州議会が、立法過程の迅速化のために同議会の共同決定権が阻害されることになるとして反対を表明しています。他方、ストックホルム欧州理は四段階アプローチが2002年初頭から稼働を始めることを決議し、また2003年末までの統合証券市場完成に向けた関係者の努力を求めており、今後の動向が注目されます。
3.欧州における証券取引所再編の動向
(1)上記の如き行政レベルでの取組よりも先に、民間レベルで証券取引所の合従連衡は進んできており、特にユーロ導入以後は活発化しています(これらは欧州単一市場という目標に向かっての動きというよりは、グローバリゼーションと電子証券取引ネットワークの発達という流れの中での証券取引所の生き残り策という側面が強い)。以下、主な動きについて概観します。
(2)99年5月、ロンドン、フランクフルト、アムステルダム、ブリュッセル、マドリッド、ミラノ、チューリッヒ、パリの8取引所は2000年後半に単一プラットフォーム設置による取引システムの共通化に関する覚書に署名しました。しかし、ロンドンとフランクフルトの主導権争いもあり交渉は紛糾、7月には妥協案として、2000年11月までに暫定的に各取引所の既存システムを相互接続することが決定されました。しかしこの計画も、下記(4)のユーロネクストの誕生等の影響で事実上棚上げされました。
(3)2000年5月、ロンドン証券取引所とドイツ取引所(フランクフルト証取等の持株会社)は、合併によりiX(International Exchange)を設立する計画を発表しました。ミラノ、マドリッドの取引所もiXへの参加を検討した他、米国NADAQとの合弁構想もありましたが、ロンドン取引所の株主の多くが合併に反対し、計画は停滞しました。その後スウェーデンのOMグループ(ストックホルム証取の持株会社)がロンドン取引所の敵対的買収を提案し、9月、iX計画は一旦撤回されました(OMによるロンドン証取買収は失敗)。
(4)一方、2000年9月にはパリ・アムステルダム・ブリュッセルの三証取の出資によるEuronextがオランダに設立されました。ユーロネクストは当面3取引所を存置するものの、単一プラットフォームによる株式、債券、デリバティブの全てについての上場、取引、決済を可能にすることを目標としています。各取引所は国毎に別々の規制・監督を受けますが、規制そのものが調和される方向で手続きが進んでおり、ほぼ完全な統合市場となる可能性が高くなっています。
(5)今後は、1.2.の如きEUレベルでの金融市場統合の着実な進展により、民間レベルの取引所再編も実効性を伴ったものとなり、一層の活発化が見られることになると予想されます。
ラムファルシー・リポートの概要
(賢人委員会最終報告書)
平成13年2月15日
第1章 変化への理由
- 経済的便益:統合された資本市場では顕著な利点が期待できる。
- 欧州委は調査を遂行し、早期に公表し、欧州金融統合市場に向けた進捗の測定指標を構築しなければならない。
- 各国政府その他の欧州の機関は、成長する中小企業へリスクキャピタルを供給するために適切な環境の確保に特別の注意を払うべきである。
- 欧州金融市場のトレンド:欧州証券市場の規模は米国の2分の1に留まっている。
- 証券市場の発展に対する障害として、欧州ワイドの規制の欠如、現存する規制の運用の不統一、決済システムの未整備による流動性阻害とコスト増、ほどんどの加盟国での年金スキームの発達の遅れ等が挙げられる。
- 市場統合を遅らせるその他の要因:間接的な要因も多数認められる。
- 法制度の違い、税制の違い、政治的障害、対外通商の障壁。
- 文化的障害には、コーポレートガバナンスや競争政策強化など公的部門が扱うものと欧州におけるベンチャーキャピタルの未発達など証券市場の統合に伴って解決され得るものとがある。
- 必要な欧州の規則の不存在:クロスボーダーでの証券市場統合の最大の障害。
- 投資サービス指令の文脈におけるホールセールビジネスの相互承認原則作業の失敗、上場と流通それぞれに関する許可の区別の不存在、電子商取引指令と金融サービス指令の間の潜在的齟齬、欧州ワイドで受容された国際的会計基準の不存在、敵対的買収指令案に関する未合意、等。
- 優先事項の決定-迅速な進捗に向けた方策:遅くとも2003年末までに実施されるべき事項を指摘。
- 発行者への単一の目論見書の導入、上場基準の現代化、ホールセール市場の母国管理原則の一般化(職業投資家の定義を含む)、投資信託と年金基金に対する投資ルールの拡大と改善、IAS(国際会計基準)の採用、定められた一定の証券市場における単一免許の導入。
- 主要な問題-現在の規制システムの機能不全:EUレベル法規に関する現在の立法手続は平均2年以上(金融サービス分野では更に長時間)を要している。
- 現在のシステムは時間がかかりすぎる、厳格すぎて市場の変化に柔軟に対応できない、規制があいまいすぎる(加盟国における適用状況もあいまい)、そして本質的な枠組みと日常的な適用の区別ができていない。
- 市場変化のペースの加速:グローバル金融市場での競争力を維持するため、市場の変化に合わせ規制システムもスピードアップすべき。
- 更に重要な3要素
(1)規制及び監督構造の収斂(第2章で詳しく説明)
(2)清算及び決済
- この分野の統合は多くが民間部門によって行われるが、公的部門は競争に関する問題や統合の障害の除去、クロスボーダー決済のコストの問題等に取り組むべき。
- 民間部門による汎欧州決済システムの構築ができないことが明らかになった場合には、公的部門による明確な方向付けが必要になる。
- 投資サービス指令の改正に向けた協議とジオバンニ・グループ(経済・金融問題について欧州委に助言する、市場参加者の会合)の作業結果を踏まえ、清算及び決済に関するEUとしての規制の枠組みを構築するか否かを慎重に考慮すべきである。
- 経済財務相理事会は、経済金融委員会(EU加盟国・欧州委・ECBの高級事務レベル会合)に、この分野に関する議論の立ち上げを求めることができる。
- 当分野において共同体の競争政策が適切に尊重されていることを確認するため、欧州委の競争総局が現状の調査を行うことを提案。
(3)健全性への影響の管理
- 市場統合の進展により各市場に共通のショックが発生する機会が増えることに鑑み、金融市場監督者と健全性監視担当機関の間の欧州レベルでの協力強化が必要。経済財務相理事会は、経済金融委員会に協力の進展について報告を求めるべき。
- 資源及び訓練:統合された金融市場設立に向けた作業への資源配分の適正化。
- 統合された欧州金融市場設立という複雑な仕事に取り組むにはスタッフが不充分。
- 欧州委では金融サービスを担当する職員はほとんどいない。
- この問題を担当する欧州議会事務局もスタッフ不足であり、強化が必要。
- 監督者と共に民間部門も、規制側と市場参加者の共通理解の促進に向けた新たな訓練を主導して行くべき。
第2章 規制改革:委員会の勧告
- 序論:中間報告の「4段階アプローチ」を紹介。
- 欧州証券立法に関する概念的枠組み:証券・金融サービスに関する立法をカバーする原則。
- 欧州証券市場の自信を維持すること、システムの安定性を確保するための健全性監視者の努力に資すること、規制が技術革新を促し同時に効果的であること、等。
- 委員会提案の詳細:第一段階から第四段階の内容。
(1)第一段階-枠組みの原則
- 証券分野の新たな規則・指令の整備は、EC設立条約の改正なしに行われるべきであり、第二段階に権限を委譲するための枠組みの原則が必要。
- 第二段階に送る事項(法案)の内容は、欧州委の提案に基づき、案件毎に閣僚理事会と欧州議会の同意を得る。これは重要な点であり、民主的セーフガードの鍵となる。
- 第一段階の範囲を決める法的ガイドラインは、EC設立条約202条及び欧州司法裁判所の判例。技術的な運用の問題は第二段階に委譲されるべき。
- このアプローチの利点は、(A)手続の迅速化、(B)手続が民主的且つ柔軟なものになる、(C)EU諸機関は各国当局の専門性の恩恵を受けることが可能、という点。
- 第一段階の協議と透明性のメカニズムとして、将来的に欧州委が、法案の提案の前に以下のステップを踏むことを提案する。(A)市場参加者及びエンドユーザー(発行者と消費者)との対話を行い(必要なら公開ヒアリングを行う)、(B)法案の完成時には協議プロセスを公開し、(C)第一段階の早期に各加盟国及びその監督当局へ非公式の協議を行い、(D)欧州議会に非公式に情報を提供し、第二段階に委譲される権力についての可能な限りの理解を求める。
- 立法過程の迅速化のために、可能な限り、ファストトラック手続の下で指令よりも規則の活用すべき。
(2)第二段階-詳細の実施
- 第二段階は、第一段階で決定された枠組みの実施の詳細を定めるため、各国証券監督者、欧州委と新しい欧州証券委員会の機能的ネットワークにより構成される。
- 主に規制的機能を持つ欧州証券委員会(ESC)と助言機能を持つ欧州証券監督者委員会(ESRC)を2001年末までに立ち上げ、機能させる。
- 第二段階の手続は以下のとおり。(A)欧州委は、ESCへの諮問の後、ESRCに対し、実施に関する技術的詳細についての作業を求める、(B)ESRCは、広く市場参加者及びエンドユーザーの意見を聴取し、欧州委に対し期限内に助言を送付する、(C)欧州委は当該助言を検討する、(D)その上で欧州委はESCに提案を実施し、ESCは期限内に当該提案について採決を行う、(E)ESCが承認すれば、提案は欧州委により採択され共同体法として拘束力を持つ、(F)ESCが反対等の場合は欧州委により閣僚理事会に送付される、(G)理事会は期限内に採択若しくは反対を決定する、(H)理事会が反対の場合、欧州委は提案を再検討し修正等を実施する。
- ESCは、(A)EC設立条約202条の下での規制委員会という中心的機能、(B)第一段階の特定の場合における欧州委への助言機関、(C)第二段階において欧州委がESRCのマンデートを付与する差異の助言機関、という役割を持つ。
- 第二段階において欧州議会は情報を全て把握し、当該措置が各機関の権限を越えていると判断する場合に決議を採択できる。その場合、欧州委は提案を再検討しなければならない。
- ESCは大臣の集まりではないが、欧州委の議長の下に、各加盟国が指名する各国の国務長官(State Secretary)級のハイレベルがメンバーとなる。
- ESRCは、第二段階においては欧州委に対する助言機関として、第三段階においては共同体法の矛盾無き実施を確実にするために、単独で、各国規制機関から完全に独立の機関として、活動する。
- ESRCのメンバーは、加盟国の証券規制・監督に権限ある当局の長とすべき。議長はそのメンバーの中から選出される。欧州委は政治的プライオリティ等に関する情報提供等の面で役割を果たす。
- 欧州議会はESRCに対し定期的な報告を要求でき、ESRCの議長はESCのオブザーバーとなる。ESRCは年次報告書を作成し、全てのEU機関に送付する。
- 第二段階におけるESRCの採決手続は、全会一致でなく特定多数決とすべきだが、少数意見は記録され、欧州委に送付される最終の助言の中で公表されるべきである。
- 第二段階での透明性確保のため、ESRCは定められた手続の下で、市場参加者、消費者、エンドユーザーと協議しなければならない。
- ESRCの協議手続は以下のとおり。(A)複雑な問題の場合、最初に問題と解決法の概要を示し、如何なる規制アプローチが適当かに関する公衆の意見を求める、(B)規制アプローチの決定後、市場及びエンドユーザーとの協議に向けてESRCにより提案書の案が公表され、(C)必要な場合にESRCは、ヒアリングや円卓会議を行い、(D)パブリック・コメントの要旨はESRCの最終勧告に補遺として添付される。
- 欧州委、欧州議会及び理事会の間の機関としてのバランスは重要であり、手続の中で欧州議会にEU条約の範囲内で適切な役割が与えられることは、全体の利益である。欧州議会は、(A)ESRCの助言の内容とその後での欧州委の提案についての情報を常に提供され、(B)欧州委がESCに提案を行う前とESCが採決を行った後に、それらが第一段階で決められた実施範囲を満たしているかどうか検討する充分な時間を与えられ、(C)実施範囲を逸脱すると判断する場合には決議を行う(その場合、欧州委は欧州議会の立場を最大限考慮して提案を再検討する)。
(3)第三段階-実施を進展させるための、規制者間の強化された協力
- 第三段階の本質は、第一及び第二段階での立法の日々の矛盾無き実施の進展(共同体ルールの共通且つ単一の実施)にあり、主たる責任を負うのは、各国の規制者である。
- 第三段階においても、ESRCは各国監督当局の代表によって構成され、採決は全会一致で行われる。欧州委はオブザーバーとして出席できる。
- ESRCは、(A)各国レベルで採択される行政規則へのガイドラインを作成し、(B)EU法でカバーされない事項について共同解釈勧告や共通基準を発出し、(C)EUにおける効果的執行を確保しベスト・プラクティスを定義するために規制運用の比較と再検討を行い、(D)加盟国の行政規制や規制運用のレビューを行い、結果を欧州委及びESCに報告する。
- これらの活動を効果的なものとするため、中長期的には監督と規制の収斂が重要。
(4)第四段階-執行
- 第四段階は、共同体ルールの執行強化であり、主たる責任は欧州委にある。
- 欧州委は、合意に基づく立法が、加盟国において正確に適用されているかをチェックする。
- 規制システムのモニタリング:「4段階アプローチ」のモニタリング。
- 構築された立法・規制システムの機能を監視し、ボトルネックを明らかにし、金融市場統合に向けた進展が見られるか否かを報告するために、モニタリング・グループが設置されるべきである。
- モニタリング・グループは、理事会、欧州議会及び欧州委それぞれについて指名される各2名の第三者により構成され、6ヶ月毎に報告を実施する。
- 全面的見直し-2004年:「4段階アプローチ」の見直し。
- 新たなIGCが決着し、拡大の第一波が起こり、金融サービス行動計画の優先事項の交渉が完了している時期であることに鑑み、4段階アプローチは2004年には全面的に見直されるべきである。
- モニタリング・グループの報告で進捗が認められず、且つ進捗が望めない場合、より早期に全面的見直しは行われる。その場合、EU単一の規制機関の創設を含め、EC設立条約の改正を検討することが適当であろう。
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