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南東欧教育・文化遺産保護セミナー
(共同議長サマリー:3月22-23日、於:国連大学)1.日程・参加者
2001年3月22日及び23日、東京において「南東欧教育・文化遺産保護セミナー」が開催された。同セミナーには、南東欧域内国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブルガリア、クロアチア、マケドニア、ルーマニア、ユーゴスラヴィア)、UNESCO、UNICEF、欧州評議会、OSCE、南東欧安定協定特別調整官事務所等の関係国際機関及びNGO等からの出席者(以上外国関係者総計(7)ヶ国・国際機関・NGO等(28)名)、並びに日本の各界の有識者((19)名)が参加した。
2.背景
本件セミナーの目的は、昨年5月に東京で開催した「南東欧ハイレベル会議」での成果及び昨年7月の九州・沖縄サミットにおける議論を踏まえ、より実務的な観点から南東欧地域における紛争後の平和構築や、少数民族問題に対して、教育・文化遺産保護が果たしうる役割について各国・関係機関の取り組みの現状と課題を展望することにより、今後の協力のあり方や「民族間の調和」を実現するための施策を探求することである。日本政府が本件セミナーを主催するのは本年が「文明間の対話国連年」にあたっており、日本政府としてもそのために貢献を行いたいと考えていること及び河野外務大臣が提唱し、本年より開始された「日欧協力の10年」の具体的な施策の一つとして実施するとの背景に基づくものである。南東欧地域においては、排外的な民族主義を主張する勢力が退潮し、改革派が主導的な勢力となりつつある一方で、民族対立及び紛争の再燃の懸念も依然残っている状況の中で、教育や文化遺産保護を通じた民族間の調和をテーマとする本件セミナーを開催することは時宜を得たものと考える。
3.開会演説
セミナー冒頭、荒木外務副大臣が主催者を代表して演説を行い、最近の南東欧地域の情勢及び日本の南東欧地域に対する支援に言及しつつ、本件セミナーが昨年5月に東京で開催した「南東欧ハイレベル会議」の基調となり、昨年7月の九州・沖縄サミットでの議論にも反映された「民族間の調和」の具体的な施策を探求することを目的としており、「民族間の憎悪」を解消し民族間の融和を促進させ紛争の再発を防ぐ上での教育及び文化遺産保護の重要性を強調した。同副大臣は、また、アフガニスタンにおけるタリバーンによるバーミヤンの巨大石仏等の貴重な彫像に対する破壊活動といった人類の共通遺産に対する暴挙をなくしていくためにも繊細さと寛容の精神に立った各国、各文明間の対話が重要である旨指摘すると同時に、本件セミナーのフォローアップの一環として、日本が南東欧地域への文化遺産に関する調査ミッションの派遣を検討している旨表明した。さらに同副大臣は、日本が南東欧における教育や文化遺産保護に関わる意義として、河野外務大臣が提唱した「日欧協力」や「文明間の対話のためのイニシアティブ」の促進及び南東欧に歴史的な関わりが比較的浅いといったメリットを生かしたより中立的な立場からの民族間の調和への貢献、といったことを強調した。
4.基調演説
最初に、松浦晃一郎UNESCO事務局長のメッセージが代読された。この中で、松浦事務局長は、遺産保護とは即ちそれを保護するために行動を起こすこと及び遺産が危機にさらされたり、損傷を受けたり、破壊された時に制裁を適用することをも意味することを述べた。また、もし我々が歴史的遺産を保護することを望むのであれば、10年前のバルカンにおけるドブロブニクへの攻撃や最近のタリバンによるアフガニスタンにおける前イスラム遺産の破壊のようなことを行う勢力に対して行動をとる必要がある旨言及した。さらに、UNESCOの南東欧に対する活動は歴史的・地理的文脈や、同地域諸国間の密接な文化的つながり及び政府や市民社会の積極的な関与を考慮に入れて、地域的アプローチにより焦点をあてていることに言及した。
ホルスト・ゴディケUNESCO南東欧ワーキング・グループ議長は、その基調演説において、本件セミナーは2001年を「文明間の対話国連年」とする国連総会決議及び「日欧協力の10年(2001-2010年)」の双方を履行する具体的ステップとして時宜を得たものであることを述べた。また、彼は南東欧地域における紛争の原因のほとんどが文化に根差しているということ、また、開発に関する議論における文化的側面の重要性に対する主催者の認識を歓迎すると同時に、それらを解決するには即効薬はなく、教育を通じた長期的取り組みが必要である旨強調した。さらに、彼は、UNESCOがドナー国、地域機構及びNGOとの協力に対して門戸を開いていることを強調すると同時に、それはすなわち国連の姉妹機関との制度的協力を補完するものであり、UNESCOがブカレスト、サラエヴォ及びヴェネチアに事務所を置き同地域において特別な役割を果たしていることに言及した。最後に、教育・文化遺産保護の観点から、本年4月にリトアニア及び同8月に東京・京都において開催予定の「文明間の対話国際会議」につき言及した。
クラウス・シューマン欧州評議会政務局長は、その基調演説において、欧州評議会及び日本との密接な協力関係に謝意を表明した。また、欧州評議会の52年間にわたる国境を越えた欧州大陸への調和、信頼醸成、協力への取り組みについて紹介した。さらに、欧州評議会加盟国との民主主義、少数民族問題を含む人権の尊重、法の支配とその多様性によって豊かになる文化遺産への共同のコミットメントを通じて、欧州評議会は平和と安定の強化のための政治戦略に貢献する民主主義的安全保障を作り出すとともに、南東欧地域に対しては国境を越えた活動やユーロ圏の創出を通じた地域協力を強く望んでいる。また、欧州評議会は南東欧地域諸国に対して、欧州文化協定のような協力の構造や少数民族保護に関する欧州枠組み条約といった法的手段も提供することに言及した。最後に、教育、民主的市民権、歴史教育、文化的ネットワーク、文化遺産保護、少数・多民族問題を抱える地域における信頼醸成、多民族・多文化社会の構築(Link Diversityキャンペーン)といった分野における南東欧地域に対する様々な行動計画を紹介した。
青木保政策研究大学院大学教授は、その基調演説において、文化遺産を尊重し守ることは、21世紀の人類に課せられた最大の課題の1つであり、その保護と管理を実施するためには当事者の利害から離れた第三者的機関を早急に設置すべきであると主張した。また、民族的偏見や差別意識は、人が成長するにつれて社会的にはぐくまれていくので、子供達に民族や文化の差異を越えた文化遺産の尊重と保護を民族的、文化的に中立な初等・中等教育を通して行う必要があると説いた。さらに、昨年の九州・沖縄サミットのテーマの中で「文化の多様性」を守るとの精神を日本は正面から受け止めて、その実現をはかる現実的且つ具体的な方策を練る必要があり、このようなセミナーを通じて、東京に「文化遺産に関するグローバル委員会」のような具体的な組織作りへの手がかりをつかむことが重要である旨強調した。5.教育セッション
第1セッション「教育」では、南東欧地域における民族、文化の多様性を認め、異民族や異文化に対し相互に敬意の念を持つ精神風土を醸成するには如何なる国際協力が効果的かに関し有意義な議論が行われた。この10年間虐殺と民族浄化を繰り返してきた南東欧地域においては、民族混住の下で和解を進めていくためには市民の心、姿勢を変えていかなければならない。具体的にはUNESCOの紛争地域及び少数民族問題を抱える地域における教育、UNICEFの児童福祉・教育、OSCE少数民族高等弁務官事務所の予防外交のための教育・少数民族問題に対する取り組み及びNGOの活動等が紹介され、紛争予防・紛争後の復興に教育が果たす役割及び少数民族問題への取り組みの重要性が特に強調された。また、民族間の緊張を緩和し多文化社会を促進する要素としての教育の例が説明された。このような観点から、カリキュラムの開発及び学習・教育過程におけるIT(情報技術)の活用が詳細に議論された。
6.文化遺産保護セッション
第2セッション「文化遺産保護」では、多民族社会を構築することに資する文化遺産の保護を如何に実現できるか、また、自民族至上主義につながらない文化遺産保護を如何に実現するかに関し、建設的な議論が行われた。具体的には、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのモスタル橋修復やカンボディアのアンコール遺跡修復等の経験を踏まえつつ、紛争後の地域における文化遺産保護を通じた信頼醸成の形成について言及された。また、日本の文化遺産保護に関する考え方及びこれまで日本が文化遺産保護のために実施してきた施策について紹介された。さらに、文化財保護法50年を記念して昨年12月に東京で開催された「文化の多様性と文化遺産シンポジウム」において採択された最終宣言及び決議の重要性、紛争中意図的に破壊された文化遺産を修復することは紛争後の信頼醸成にとって象徴的な意義を有すること、他方、特定民族・宗教の文化遺産の保護は自民族至上主義につながるおそれがあり、保護すべき文化遺産の選定は政治的に機微であること、紛争後の状況における復興・開発と文化遺産保護の両立の困難さ、地域社会全体の取り組みが調和へ繋がること、文化遺産の脱民族化が必要であること、文化遺産保護も教育が伴わねばならないこと、文化遺産保護のための法的枠組みの重要性、文化遺産を破壊から保護するための政治的意思の重要性等についての言及があった。また、アフガニスタンにおけるタリバーンによる人類の共通遺産であるバーミヤンの巨大石仏の破壊に対して多くの発表者から懸念が表明された。これを受けて、共同議長の責任において、別紙のタリバーンによる彫像破壊に関する共同議長声明が発せられた。
7.総括セッション
総括セッションでは、本件セミナーの2つのテーマである「教育」、「文化遺産保護」が南東欧地域における紛争後の平和構築や、少数民族問題に対して果たしうる役割の重要性とともに、各ステップを南東欧地域諸国が着実に達成していくことができるように、国際社会がこれら諸国の自助努力を促すべく、引き続き支援を継続することが重要であるとの認識が共有された。相対立する民族集団間の和解は容易ではないが、寛容と繊細さを尊重し、人間中心の社会が南東欧地域に一日も早く実現することが重要であるとの共通した認識が得られた。
8.結論
本件セミナーにおいて討議された全てのテーマはいずれも中・長期の取り組みを必要とするものであり、今後、各国政府、UNESCO、UNICEF、欧州評議会、OSCE、南東欧安定協定特別調整官事務所等の関係国際機関、NGO等との連携の下、具体的なフォローアップが行われることが重要である。その一環として日本政府からは南東欧地域への文化遺産に関する調査ミッションの派遣を検討している旨が表明された。
また、教育・文化遺産保護の重要性とともに、「個人の尊厳」の重要性についても指摘があり、「人間の安全保障」の考え方に基づいた人道支援の重要性が強調された。
最後に、今回のセミナーが「文明間の対話国連年」における先駆的役割を果たすことが指摘され、また、南東欧にとどまらず、世界の各地において紛争後の平和構築や少数民族の保護ひいては紛争そのものの防止に教育や文化遺産の保護が効果をあらわすよう、国際社会が力を結集することが重要であることが参加者により認識された。
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