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外務省機能改革会議
―提 言―

平成13年4月24日

はじめに

 外務省機能改革会議は、松尾元外務省要人外国訪問支援室長による公金詐欺事件をうけて、このような事件の再発を防止するとともに外務省機能を抜本的に改革する方策を検討するようにとの河野洋平外務大臣の要請をうけて発足した民間人の会議である。
 私たちこの会議の構成員は、それぞれの分野で国際社会と日本との関係に関与しており、外務省の活動にも積極的に協力してきた。外交の重要性が高まるなか外務省が立派に活動してくれない限り、国際社会における日本はないと思ってきたからである。その私たちにとって、今回の松尾事件ほど不愉快きわまりなく許しがたい事件はなかった。
 多くの国民とともに、私たちは、圧倒的多数の外務省員が日本の国益を守るために日夜努力されているものと今でも思っている。しかし、現代外交の中心ともいいうる首脳外交を食い物にするような活動を外務省の一員が行った。しかも、相当な期間にわたってこの悪事が気づかれることなく放置されてきた。こんなことで、本当に外務省は日本国民の利益を守れるのだろうか。ますます複雑化する世界情勢の中で、巧みに影響力をふるう外交活動を行わなければ、日本の将来はない。そのなかで、このような事件が起きたことは、本当に残念である。
 国民の多くが外務省に不信感をもつに至ったことも、私たちは当然だと思う。松尾事件以外にもいくつもの疑問がマスコミなどで取り上げられた。いまや外務省に対する信頼感は、史上最低ともいいうるのではないか。外務省の職員とりわけ幹部職員には、このような不信感に対して、謙虚に耳を傾けてほしいと思う。この事件を契機に、外務省は徹底的な自己改革に取り組むべきである。そのような自己改革に外務省が真剣にとりくんでくれるのならと思って、私たちは本会議に参加し、改革に向けて真剣に議論をしてきた。
 2月21日の本会議の第1回会合の際、河野外務大臣から、(1)外務省に対する国民の信頼を回復し、理解を増進するための方策(2)効果的な外交を実施するための組織および体制上の課題(3)外交における人的体制の問題(4)報償費を含めた予算のチェック体制の問題の4点について特に検討するようにとの要請があり、以後、これらについて合計10回会合を重ねて検討してきた。
 審議過程では、総理の外国訪問にかかわる事務体制、外務省内の会計・人事・査察体制などについて説明を受けるとともに、外務省省内の専門職員・第III種職員12名、また柳谷謙介元大使(元事務次官)からもヒアリングを行った。省内に提言箱も設けた。また、事務局が外務省内で全省的におこなった各種のヒアリングの内容についても随時報告を受けた。本報告書作成の最終段階に至る第7回会合までは、毎回会議終了後、記者会見を行うとともに審議内容を外務省ホームページで公開してきた。外務省ホームページによせられた国民の意見も毎回、事務局から報告をうけた。
 以下の報告書では、問題の所在として松尾事件のような不祥事がなぜ発生したかについての私たちの理解を述べ、それをうけておおむね河野外務大臣の提起された四つのテーマについて、私たちの提言を述べる事にする。外務省には、是非この提言を参考にして、具体的な改革案を至急作成しその実現を図ってほしい。

課題

 現在の外務省にとって組織としての当面の最優先課題は、松尾事件のような不祥事の再発防止をはかることである。これが本報告書に一貫してながれる問題意識である。このような不祥事を二度と再びおこしてはならない。他の面でいかに立派な外交活動を行ったとしても、このような不祥事を起こしてしまえば、国民の信頼を失われ、外交の土台が崩れさってしまう。
 もちろん、不祥事さえ起こさなければそれでいいということにはならない。したがって、これに加えて外務省にとって根本的な課題は、どのようにして国民に信頼され、国益を増進する強力かつ効率的な外交体制を確立するかということである。不祥事が起きない体制をつくることによって、失われた国民の信頼を回復し、このような不祥事を生み出した現在の組織体制を全面的に見直すことによって、国益をしっかりとみすえた強力で効率的な体制づくりのための改革に着手しなければならない。そして、この改革とは本質的には内部から沸き上がる改革でなければならない。なぜなら、内部からの自浄能力による改革でなければ、決して国民の信頼を勝ちうる事はないであろうし、また効果的・効率的な外交実施体制も作り上げることもできないからである。

問題の所在-なぜ松尾事件のような不祥事がおきたのか

 形式的なことをいえば、松尾元外務省要人外国訪問支援室長のおこした不祥事は、現在警察による捜査が進んでいるように、個人の犯罪であると見なすこともできないわけではない。しかし、もし外務省内部に、今回の事態を個人の犯罪にすぎない、すこし時間がたてば国民の怒りもおさまるであろうとの考えがあるとすれば、それは根本的に間違っている。なぜなら、今回の事件がおきた背景には、個人による悪事という側面にくわえて、少なくとも三つの構造的要因があるからである。
 第1に、今回の事件の背景には外務省職員とりわけ幹部職員の間に、民主主義国の合理的組織とは思えないような意識構造が存在することである。とりわけ驚くべきことは、松尾元室長の悪事が何年にわたって発覚もしなかったのみならず、事件発覚後、なぜこのようなことになったか省内で全くわからないとされたことである。会計のことは人任せ、地道なロジ業務1などは部下がやればいい、自分たちは高尚な外交活動に専念するというような奢った態度がなかったか。松尾元室長が「ロジの神様」扱いされ、便利に重用された背景に、そのような意識がなかったか。そもそも部下の行った活動について、十分監督できなかったということについての反省がどのくらいあるのだろうか。適切な監督責任の存在しない組織は、そもそも合理的組織の体をなしていない。より根本的にいえば、みずからが国民の税金を使って外交を行っているという意識がどの程度あったのかという問題に行き着く。この事件を契機にマスコミなどで指摘されるようになった問題点の背景にはこのような意識が存在していると判断せざるをえない。


  1. logistics(兵站)という用語から派生した略語。交通手段(飛行機、自動車など)、宿舎、通信手段などの手配、これにまつわる緊急事態の対処などの業務をいう。このような「ロジ」に対して、条約や共同声明などの対外政策の形成や交渉などは「サブ」(substance実質)と外務省内では呼ばれているようである。


 第2に、しかしながら、今回の事件が起きた背景には制度的問題も存在する。とりわけ重大だと思われるのは、総理大臣の外国訪問に関する内閣官房と外務省の間の業務分担がきわめて不明確であったことである。総理大臣外国訪問にかかわる内閣報償費の一部を十分な検査体制なしに松尾元室長が一人で取り扱えたというのは決定的な制度の欠陥であった。さらにその背景には、総理など要人の外国訪問における、実態にそわない硬直的な制度や慣行があった。2000年に旅費法の運用が見直されたため現在では問題でないとされるものの、実際にかかった総理随行者の宿泊代と規定の宿泊代の差額を正当に支出できないという制度が、内閣報償費をこれにあてた原因であった。松尾元室長の悪事は、この隙間をねらったものであった。現在でも、要人の外国訪問などにおいて、国際的には当然支出が想定されるデポジット料やキャンセル料は、現在の運用では不可能だと言われる。このような国際慣行に合致しない慣行を行っているところに内閣であると外務省であると問わず報償費などが不当に使用される可能性を生み出しているのではないか。

 さらにより視野を広めてみると、松尾事件の第3の背景として、現代外交の変化という要因もある。かつて外交といえば、二国間外交が主体であった。特命全権大使が任地国政府と交渉する、せいぜい外務大臣同士が交渉するというものが中心であって、首脳が直々に外交交渉をするということは少なかった。総理大臣の外国訪問もそれほど頻繁ではなかった。これが、現在では全く様変わりである。多数国が参加した巨大国際会議が頻繁に行われるようになり、そこに外務大臣はじめ各省大臣が参加する。総理自らが参加する国際会議もG8サミット、APECサミット、ASEAN+3サミットなど最低年3回はあるし、これに総理が直々に外交交渉のために外国訪問する例も急増している。
 このような首脳外交・多角外交が主流となりつつある時代に、総理の外国訪問などに対するロジの仕組みや随行員の選抜の仕方などは、依然として、総理の外国訪問が稀な時代のままである。かつて通信手段も便利でなく、総理外国訪問が内閣にとっての一大事であった時代と同じような体制を整えて外国訪問が行われている。その結果、規模ばかり膨れ上がった国際的にみて誠に異様なほど大規模な外国訪問団が組織されてきた。ここに、不必要なまでに巨大なロジ業務、つまり松尾元室長がつけこむことになった環境が発生していたのであった。いうまでもなく、このような首脳外交主体の外交はますます盛んになるであろう。しかし、情報通信技術の発達した今、このような非常識な外国訪問団を組織する必要性は全くない。それにもかかわらず、大時代的な外国訪問を繰り返していては、そこに再び不祥事を生み出す温床がうまれるであろう。

 つまり、外務省が、松尾事件のような不祥事の再発を防止しようとすれば、幹部職員を中心とした職員全体の意識改革をはかり、チェック体制を強化し、国際社会の実態から乖離した制度や慣行を適切に見直し、現代外交の変化に適合した効率的な体制を作り上げていかなければならないのである。このような趣旨をより具体化したものが以下に列挙するさまざまな提言である。

提言

I 国民のための外交・国民とともに歩む外交 
(第1テーマ 外交実施体制に対する国民の信頼の回復と理解の増進)

1.徹底的な意識改革

 民主主義国における外交は国民を離れてあり得ない。外交官のみが国益を理解しているのだから、国民はこれについてくればいい、というような発想を捨てなければならない。根本は「国民のための外交・国民とともに歩む外交」である。もちろん、何が日本の国益になるかについての外交官としての信念は必要である。いたずらに世論に迎合するばかりが「国民のための外交」ではない。しかし、民主主義国の外交においては、国民に理解してもらえない外交官の国益観は独善でしかありえない。まして、そのような「ひとりよがり」が公私混同をもたらしているとすれば何をかいわんやである。外交活動に使用されている予算は、すべて国民の税金である。公務員であるかぎり当然のこの認識に立ち返ることから始める必要がある。

2. 領事業務の抜本的改善

 「国民とともに歩む外交」といっても、実は多くの国民にとって外務省は疎遠な役所である。日常的に外務省と接触する人々はそれほど多くない。そのなかでいえば、領事部門は内外の人々との接点のきわめて大きな部門である。しかし、日本人の海外渡航、在留が格段に増大しているにもかかわらず、これまで外務省は領事業務をあまり重視してきたようには見えない。「国民のための外交」は、全体としての外交政策を国益にそって実行することとならんで、外国における日本国民の安全を確保し、利益を増進することにも重点をおかなければならない。その意味で、在外邦人援護サービスを今後の外務省の大きな柱としなければならない。このため、在外公館における領事部門を質的、量的に充実させる必要があり、また、本省においても、領事移住部を飛躍的に拡充する必要がある。
 もちろん、国民の側でも外国で何かこまったら何でもかんでも領事館に頼めばいいという発想は持つべきではない。外国生活の基本は、外国の制度の中での自立である。しかし、その上でやはり外務省は、在外邦人の便宜をはかり、かつ、その安全を確保するために全力を尽くす体制をととのえなければならない。そして、在外公館として何ができ、何ができないのかをはっきり整理した上で、その区別がよくわかるように広報するとともに、問い合わせがあったときに丁寧な説明ができるような態勢をとって置く必要があろう。

3. 情報サービスの拡充

 外務省は、これまでにも増して国民に対する情報提供に積極的にならなければならない。外国訪問者や滞在者にとって重要な海外安全情報のみならず、日本企業にとって有用な経済関係情報や、各国の政治社会状況などについての分析情報の提供にも積極的にならなくてはならない。これまでの外務省から提供される情報には、ややもすれば、相手国の立場を配慮するあまり無味乾燥な事実の列挙に終始する傾向があった。外交関係を傷つけてはいけないが、国民に正確な情報を提供することが、日本最大の国際情報機関・シンクタンクとしての外務省の役目である。このような情報提供にあたっては、インターネットを活用することはいうまでもない。各在外公館も、現地向けのホームページの整備はもちろんのこと、日本語のホームページも充実させなければならない。

4.「第三者委員会」(「開かれた外務省」委員会)の設置

 「国民とともに歩む外交」を実現する観点から、外務省の活動を定期的に点検し改善策を外務大臣に助言する民間有識者からなる小規模な「第三者委員会」の設置を提唱する。
 いうまでもなく、外務省の活動についての意見や苦情は、省内からのものも含めて、外務省自ら積極的に受け入れ、担当部局や在外公館に於いて必要な対処・改善策を講ずるべきである。また、必要な場合にはそのような意見や苦情を・で述べる監察査察のメカニズムにのせて、より効果的な監察査察の実施に役立てるべきである。
 このような意見・苦情の活用・処理は、定期的に「第三者の目」に触れさせる事によって、より国民の常識に合致したものになる。省内外からの意見や苦情への対応振りや、それらの意見・苦情に基づいて行われた監察査察の結果を、この委員会に報告し、その方法や対応について意見を求めるものとするのである。つまり、外務省の自己改善措置を国民の眼からモニターしようというのが本委員会の機能である2。本委員会で提起される案件は、プライバシーや外交に関する機微な情報に触れる可能性もあり、構成員は守秘義務を負うようにすべきであろう。なお、本委員会を補佐する「事務局」は監察査察組織と密接な連携をとったものとし、小規模効率的なものとしなければならない。


  1. 本委員会で取り扱う国民の意見や苦情は、組織としての外務省の活動に関するもので、外交政策そのものに関わるものではないとするのが適当である。外交政策そのものについても外務省が国民の意見を十分聞く事は当然の事であるが、この面で外務省を監視・監督するのは内閣総理大臣の責任であり、国会の責任である。


II 効率的かつ効果的な外交体制 
 (第2テーマ 効果的な外交実務を実施するための組織・体制上の課題)

1. 要人の外国訪問業務の国際標準化

 要人の外国訪問はこれからも増えることはあっても減ることはない。現代の国際関係において、その実質的意味はますます大きくなる。しかし、そのような要人の外国訪問は今や何ら特別のものではありえない。日常的に行う重要外交活動なのだとして体制を見直さなければならない。その意味で、現在、日本が行っている総理を始めとする要人の外国訪問にかかわる事務体制や予算は、国際的にも異様なほど大時代的で大規模なものである。同行者数、現地での対応をゼロベースから、国際標準に照らして見直し、大幅に削減すべきである。関連しそうな各省責任者、課長、課員などすべてぞろぞろ連れて行く必要はない。国会議員が総理に同行するという慣行も原則としてやめるべきである。
 今回の松尾事件の問題を考えると、急務の課題は、総理の外国訪問に関する内閣官房と外務省の役割分担を明確にすることである。私たちは、ロジ業務については、会計手続きも含めて外務省で一元的に管理することを提案する。もちろん、一元的に管理するとすれば、論理的にいえば内閣官房がロジ業務を含めて管理するというやり方がありうるが、現実的でない。在外公館を動員した対外折衝や総理以外も利用することのある政府専用機の運行なども含めた事務部局を、総理の外国訪問のためだけに内閣官房に創設するのは、効率的でないからである。つまり、総理外国訪問に関わる予算は、外務省予算に一元化し、外務省の会計手続きのもと厳正な執行を行うようにすべきである。同時に外務省の職員が内閣報償費を取り扱うことは一切ありえないようにすべきである。
 要人の外国訪問がますます必要になり、増えるとすれば、そのロジ業務を効果的・効率的なものにすべきであることはいうまでもない。松尾事件後、外務省は要人外国訪問支援室を廃止したが、業務の効率化、ノウハウの蓄積のためには、かえってロジ専門部署を省内でも一元化しなければならない。総理の外国訪問だけでなく外務大臣の外国訪問、外国要人の日本訪問など共通する要素の多い業務をまとめて取り扱う部署を整理・統合によって設置すべきであろう。その際、ロジ業務に関わるノウハウ・経験はマニュアル化し、特定個人の経験や能力に依存しなくてすむような体制を整えるべきである。マニュアルも、IT技術を活用して省内・在外公館どこからでも参照できるようなものにすべきであろう。  要人の外国訪問の国際標準化ということでいえば、キャンセル料やデポジット料の支払いができないとされる現在の硬直化した会計法規や会計の運用は早急に見直す必要がある。また、コーポレート・カードの使用も事務合理化と透明性の維持のために検討しなければならない。

2.便宜供与業務の見直し

 松尾事件に関連して、マスコミなどを通じて大きく問題とされたものが、外務省の政治家、官僚、報道関係者、その他に対する便宜供与のあり方であった。便宜供与に外務省報償費が使用されているのではないかとの疑問もあった。私たちは、業務で外国訪問をする国会議員や官僚に在外公館が便宜供与をおこなうことは適正な範囲であれば必要であると思っている。また、経済人、報道関係者、NPO関係者、研究者、その他さまざまな国民が、それぞれの活動において在外公館から一定の便宜供与を受けることも必要であろう。しかし、これらについて便宜供与の内容を秘匿する必要は全くない。国民の疑惑をはらすためにも、外務省は、国民の目線に立って便宜供与の基準を再検討の上、公開すべきである。さらに、実際に行った便宜供与の実態についてはそれに関わる支出も含めて情報公開の対象とすべきである。外務省がこのような改革を行うにあたっては、便宜供与を受ける側の関係者(政治家、本省・他省庁官僚、報道関係者など)の意識も変わる必要があることを付言したい。

3.全面的な事務合理化

 外務省内の職員のヒアリングをしていて、私たちが驚いた事の一つは、その職場環境の問題であった。首脳外交などがあると、その前後には、事務連絡その他で担当課は毎日午前3時とか4時まで仕事をするというのである。こんなことでは、仕事と家庭の両立はむずかしい。しかも超過勤務手当てはほとんど払われないという。このような、労働基準法を無視したような仕事のあり方を職員にさせておいて当然だとする意識が幹部職員にあるとすればきわめて問題である。ここには、「私」のために「公」を食い物にする公私混同とは別の意味の、「公」のためなのだから「私」をいくら犠牲にしてもかまわないという、公私混同がある。そもそも、このようなゆとりのない職場環境では、世界のどこにいっても通用する、人間として魅力的な外交官は育たないのではないか。
 世界中を相手にしているという外務省の特殊性はありうるにしても、「シフト制」を敷くとかの合理化手段はあり得るはずである。適切な外部委託をするなどの事務合理化が必要であろう。また、事務合理化について外部のコンサルタントに助言を求める事も必要であろう。とりわけ、複雑な官庁会計の仕組みの合理化・簡素化・明確化のための検討が必要である。
 また世界中に展開する在外公館の中には、あまりに少人数の館員しか手当てできないために、本来複数であたるべき会計業務を担当する人間が一人しか手当てできないところもある。適切な人員配置を心がけることはもちろんであるが、拠点となる在外公館を活用したり広域担当者を指名するといったやり方により、人員不足を補う方法を検討すべきである。

III 強力な外交のための人事体制改革 
 (第3テーマ 外交における人的体制の問題点および人事運営のあり方について)

1.公平性、客観性、透明性のある能力本位の人事

 外務省を揺るがした不祥事が、III種職員の出世頭によって引き起こされたという事実は大変重い意味がある。人事を活性化するとして行われたはずの登用制度がうまく機能しなかったということを物語っているからである。外務省職員からのヒアリングにおいても、人事に公平性、客観性、透明性が欠如しているとの意見が多くだされた。公平性、客観性、透明性の欠如するなかでの登用制度は、かえって職員のやる気を低下させ、不健全な派閥意識を醸成してきた感がある。このような人事体制をそのままにしておきながら、外務省が、日本の国益を担って効果的・効率的外交を行うのは不可能である。公平性、客観性、透明性のある能力本位の人事を実現するとの目標を明確にしなくてはならない。

2.有能な人材の積極的任用

 能力本位で適材適所の人事を実現するためには、職種を問わず競争的原理を厳格に導入し、信賞必罰の原則を徹底する必要がある。I種職員であればほとんどの者がどこかの国の大使になれるというような慣行はやめるべきである。在外公館長や管理職を含め、任期付き公務員任用制度なども活用し現在より以上に外部からの任用に積極的になるべきである。また、採用段階の職種にこだわらず、たとえば、有能な専門職職員を、専門とする国の大使に現在以上に積極的に任用するなど、適正なポストに任用する必要がある。その手段として、やる気があり能力ある人材を発掘するため、交代時期のポストについての省内公募制を実施すべきである。このような職種を超えた任用を積極化するとともに、現行の「登用制度」は弊害があるとの指摘もあるので見直すべきである。

3.定期的な異動と任期の徹底

 外務省のこれまでの人事で特徴的なことは、定期日に異動するとの原則が守られていないことである。決まった時期に人事異動するという日本の組織に通常見られる原則がほとんど守られていない。このことが、内部における人事の不透明感を増大させている。この際、職員は定期日に異動するとの原則を徹底すべきであろう。さらに、同一ポストに同一人がついている任期についても原則を確立し、松尾元室長のような5年以上も同じポストをつとめるなどということのおこらないようにすべきである。このような定期異動の原則が存在しなければ、いつどのポストが空くかわからないので、上述の省内公募も具体的には機能しないであろう。とくに、III種職員について、定期異動の原則の徹底とともに将来経験するであろう仕事についての予測可能性が高まるようなローテーションとキャリア・パスの見通しを示すことが必要であろう。

4. 人事管理機能の強化

 能力本位で適材適所の人事を実現するためには、すべての省員の評価メカニズムを確立することが不可欠である。これまでのような地位の上のものが下のものを評価するのみでなく、下から上も含めた評価の体制を確立しなければならない。とくに上司の公私混同や不適切な言動などを部下が評価できるような仕組みをつくり、風通しのよい組織を作る必要がある。
 また、これまでの外務省の人事においては、公館長や局長など上司の意向が不必要なまでに強く反映している。省全体の人事配置を視野においた人事ができるような権限が人事担当者に与えられなければならない。
 上記の人事管理機能の不可欠の一環として、省員からのきめの細かい意見聴取・コンサルティングの仕組みを作る必要がある。他省庁と比べても女性職員を積極的に採用している外務省にあっては、とりわけ女性職員の処遇に対してきめの細かい対応をとる必要がある。職場における男女共同参画の実現にむけ、機会均等を実現しなければならない。

5. 研修の拡充

 世界中さまざまな場所が職場となる外務省にとって、効果的な研修なくして、さまざまな状況に対応できる外交・領事業務は不可能である。特にIII種職員に対する領事研修・語学研修は不可欠である。在外勤務の相当前からの国内での研修、現地での研修の期間が確保される必要がある。また、在外公館で経理に携わる職員についてはとりわけ会計業務等についての研修が十分になされなければならない。
 他方、外交に携わる決意をもって入省したI種および専門職の職員については、組織としての外務省のあり方を理解させる意味から、若い時に領事・官房業務などの現場体験をさせる必要がある。将来、管理職となる人間が、会計のことはわからないなどという口実で監督責任を免れるかの感覚を持つ事はゆるされないからである。
 外交と国内問題がますます密接になりつつある現代、民間企業や国内諸官庁職員との交流は不可欠であるし、情報交換にも役立つ。このため、全省庁を対象にし、民間も参加している人事院研修についても、外務省職員は積極的に参加すべきである。

IV 不正と疑惑の根絶
 (第4テーマ 外交実施体制に対するチェック・監査体制等)

1. チェック体制の整備

 外務省が国民の信頼を回復するためには、不正と疑惑を根絶するための厳正な仕組みを作る事が不可欠である。そして、この仕組みは単に不正を暴くだけでなく、外務省が国民の信頼を基礎として力強く外交を展開する組織に変わっていく助けとならなくてはならない。松尾元室長の行った不正が全く見抜けなかったということは、省内のチェック体制の本質的欠陥を示している。たしかにこれまでも、外務省には査察制度があったが、これでは今回のような事態は防げなかったし、またマスコミなどで指摘されているさまざまな疑惑に対して対処できているのかも不明である。私たちは、二重・三重のチェック体制を確立し責任を明確にするため以下のような抜本的改革を提案する。

(1) チェックの対象は、在外公館のみならず本省も対象にする。つまり在外公館に対する査察に加えて、本省業務についての監察制度を新たに創設する。

(2) 監察査察実施体制の責任者のポストをハイ・レベルのポストとすることによって、その体制を抜本的に強化する。

(3) 外部有識者に守秘義務をかけて監察査察に参加させる。

(4) 監察査察の抜き打ち実施も行う。

(5) 監察査察部門に省員が直接意見を提起できる仕組みをつくる。

 ここで提案した監察査察部門は、本省・在外公館において不正が行われていないか否か、国の予算の執行とりわけ報償費が適切に使用されているかを重点としてチェックを行うものとするが、事務の合理化や組織のマネジメントについての指導も併せて行うことにより、職員のやる気を更に引き出すことにも配慮すべきである。

2.報償費制度の改革

 松尾元室長の犯罪は、もっぱら内閣報償費をめぐって発生した事件であり、外務省報償費が関係していたわけではない。しかし、この事件をきっかけに外務省報償費の使用についても多くの疑問が投げかけられた。私たちは、ある種の外交活動や情報収集において、使途や支払先を公開できない予算が必要であることを否定しない。日本のように世界の隅々までその利害関係のある国においては、相当な予算がこのような費用に必要だという事も否定しない。効果的に使われるとの信頼が国民の間に生まれれば、国益増進のための外交工作に真に必要な分は、かえって増額すらすべきであろう。しかし、内閣報償費について外務省員によってこれだけの不正が行われていながら、外務省報償費については全く問題ないとの姿勢は、常識的には簡単に受け入れられるものではない。外務省は、今、その自浄能力を最大限に発揮しなければならない。報償費の使途が公開できないとすればなおのこと、自ら費用対効果にも留意しつつ厳正な執行に務めなければならない。私たちは、このような考え方にたって、国民の信頼を回復し、真に効果的な外交を行うためには、報償費については、当面少なくとも以下の改革をおこなうことを提言する。

(1) 真に必要で機密性の高い外交活動・情報収集にしぼって効率的・効果的に報償費を使うとの原則のもと、外務大臣が優先順位を決定し、責任をもって、その執行を監督すべきである。その意味でいえば、報償費という名称じたい私たちには違和感がある。

(2) 使途・支払先を明らかにしても外交上問題が発生する可能性がなく、一般予算で支出しうる費目は、他の予算項目を拡充あるいは新設して、そちらで使い公開すべきである。その結果として、平成14年度予算以降の報償費については、減額すべきは減額して概算要求すべきである

(3) 公開できない部分については、会計検査院の検査とともに、前節で記した監察査察体制によって徹底的なチェック体制のもとにおく。

(4) 報償費予算については、徹底的に効率的な使用をおこなうべきであり、平成13年度予算を含め、年度末にすべて使い切ろうなどとしてはなら  ない。但し、報償費は機動的に活用すべき予算であり、年毎にある程度の変動が見込まれるので、ある年に使い切らなかったからといって、自動的に報償費予算を減額するということになってはならない。

 言うまでもなく、いかなる予算も執行後の政策評価はきわめて重要である。使途が公開されない報償費については、より一層、内部的な政策評価が適切になされる必要がある。その点についても、絶えざる検証を行わなければならない。
 松尾事件をきっかけにしておこった外務省に対する国民の疑惑と不信は、ここで述べたような報償費制度の改革なしには解消することはない。今後の報償費については、減額すべきは減額して概算要求するなど、身を切る覚悟で改革を実行してほしい。

おわりに

 この作業に参加した私たち外務省機能改革会議メンバーの気持ちは、「はじめに」に書いたように、国民の疑惑と不信を払拭して、なんとか外務省が自己改革に真剣にとりくみ、国益を増進する外交を強力に実行できる体制を確立してほしいというものであった。とりわけ私たちは外務省に自浄能力を発揮してほしいと思った。したがって、これまで述べた提言においては、原則的な観点を重視して、あまりに細かい制度上の具体策には触れていない。細かい制度設計は、組織としての外務省が自浄能力をまさに発揮すべきところだからである。しかし、私たちとしては改革の原則はできるだけ明確に示したと思う。是非、これらを参考にして具体的な改革案を早急にとりまとめていただきたい。
 なお、松尾事件のような事件の再発防止とこれとの関連における外務省機能の改革という観点で作業をおこなったため、本提言に触れていない問題がまだまだありうることは付け加えておきたい。たとえば、在外公館の重要な機能を担っている現地職員、専門調査員、派遣員、各省からの出向者などの職員の処遇についてである。これらの残された課題をも含めて、外務省が全面的な機能改革に取り組んでほしいと思う。
 本会議のヒアリングに応じていただいた外務省職員の方の意見や、その他省内から寄せられたさまざまな意見や提言は大変参考になった。このような意見や提言を検討しながら、私たちは、外務省の自浄能力に期待するとの見方は間違っていないと思うようになった。なんとか外務省を良くしたい、これが圧倒的多数の省内の声であったからである。この省内の声を背景に、私たちが提言した以上の改革を断行してほしい。
 本提言を作成した事で、私たちの役割は終わることになるが、外務省が改革案を作成した時点、および改革を実行にうつして一年程度たった時点で、私たちにその内容を示していただきたいと思う。具体案作成とその実現こそが、多くの国民にとっても私たちにとっても重大な関心だからである。



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