
平成17年1月18日
第1章 なぜMDGsは重要なのか、そしてなぜ我々はそれを達成できないのか
1.最も広く支持され、包括的かつ貧困削減を目指す目標。以下の重要性を有す。
(1)国際的な開発政策
2000年のミレニアム宣言において、各国は、貧困削減、保健状況の改善、平和、人権、ジェンダー間の平等、環境の持続可能性の強化に関する地球規模のパートナーシップにコミット。モンテレイ開発資金会議、WSSDでもMDGsを再確認。
(2)生産的な生活のための手段
極貧とは「人を殺める貧困」。飢餓、教育、ジェンダー間の平等、環境、健康等の目標達成が経済成s長と発展には不可欠。経済成長率のみを語ることは誤り。
(3)世界の安全保障
MDGsは国際的・国内的な安全と安定に不可欠。多くの首脳が貧困削減と世界の安全保障との関係を強調。MDGs達成が、暴力的な紛争、不安定化とテロリズムをなくすための国際的な努力の中心に据えられるべき。国連安保理の常任理事国入りを目指すような国は、ODAの対GNP比0.7%を達成するというコミットメントを果たすべきというハイレベル委員会の勧告に同意。
2.MDGs達成状況
サブ・サハラ・アフリカは悪化、アジアは最も改善したが不充分、その他の地域は改善・悪化が混在。飢餓、初等教育、水分野では改善が見られるが、保健(特にエイズ・結核・マラリア)、衛生、スラム、環境分野では改善がない、あるいは悪化。
3.達成の鍵は、一人ひとりが生産的な生活のための基本的な手段を持つこと。
(1)適切な人的資本、(2)基礎インフラへのアクセス、(3)基本的な政治的・社会的・経済的権利が必要。市場の力だけでは、道路、電気、安全な水等の基礎インフラを欠いた途上国の農村を救えない。
4.MDGsが達成できない4つの原因
(1)脆弱なガバナンス:法の支配、政治的・社会的権利、健全な経済政策、透明性、効果的な運営、市民社会の参加等が確保される必要がある。
(2)「貧困の罠」:1)多くの国では、ガバナンスが良好でも、貧しすぎるために資金が絶対的に不足。債権国は、開発支援する一方で債務を徴収。「貧困の罠」への対処として、米のミレニアム・チャレンジ会計(MCA)を重視。2)絶対的な資金不足は、貧困の悪循環を招く。3)サブ・サハラ・アフリカを中心に、輸送、農業生産、健康等の面で不利な地理的状況にある国は、「貧困の罠」に陥りやすい。
(3)局所的な貧困(Pockets of Poverty):中国西部、メキシコ南部、ブラジル北東部、インド・ガンジス河流域等遅れた地域や都市のスラムで国全体では改善が見られても局所的に存在する貧困。
(4)政策的な無視:環境政策、ジェンダーに基づく差別、子どもや母体の健康等の分野では、無視があったり、策が講じられていない。
第2章.MDGsを達成するための国レベルのプロセス
1.MDGs達成のための国家戦略策定
貧困削減の一義的責任は途上国が負うが、最貧国のMDGs達成にはODAの大幅な増額が必要。
各途上国は、MDGsに依拠した貧困削減戦略(PRS)を策定し実施すべき。良好なガバナンスと国内資金動員に向けた努力が見られる場合、十分なODAが手当てされるべき。PRSPが存在する場合には、MDGsに即して改訂すべき。達成が見込まれる場合には、より野心的な目標(MDGsプラス)を策定することを提案。
2.4段階のアプローチ
(1)対象確定、(2)ニーズ・アセスメント、(3)10年枠組みの策定、(4)3~5年のMDGsに依拠したPRSの策定を勧告。これには、透明性、人権、結果に基づく運営といった公的セクター戦略、また、経済成長を促進し、長期的には経済協力から「卒業」するための民間セクター戦略を含めるべき。
3.貧困層の能力強化に向けた公的投資のプライオリティ
すぐに実施でき、短期で成果が出るものをクイック・ウィンとして開始することを勧告。具体的には、(1)授業料・制服費用の廃止、(2)サブ・サハラ・アフリカ農民への肥料の支給、(3)地元生産食糧を用いた無料の学校給食(持ち帰り給食を含む)、(4)マラリア汚染地域のすべての子どもへの蚊帳の支給、(5)基礎健康サービス料金の廃止、(6)性とリプロダクティブ・ヘルスに関する情報と知識へのアクセス拡大、(7)エイズ・マラリア・結核に有効な薬剤使用の拡大、(8)スラム改善基金の設立と住宅地確保、(9)女性への暴力を減らすための国家キャンペーンの開始、(10)大統領・首相の科学補佐官室の設置、(11)植林活動へのコミュニティ・レベルでの支援、等。
4.投資・政策分野
(1)農村開発(農業生産と収入の増加。「21世紀の緑の革命」による生産能力増大)、(2)都市開発(雇用増大、スラムの改善、新たなスラム形成への対策)、(3)保健システム(基礎サービスへの普遍的アクセスの確保。一次医療の整備と基礎サービスにおける料金の撤廃)、(4)教育(普遍的な初等教育、拡大された中等教育及び高等教育)、(5)ジェンダー平等(ジェンダーに基づく差別を越えるための投資)、(6)環境(改善された資源管理のための投資)、(7)科学技術及びイノベーション(国家のキャパシティの構築)が挙げられる。これらは、相互に依存。
5.スケーリング・アップ
スケーリング・アップのためには、政治的なリーダーシップの下、(1)具体的な対象と作業計画の策定、(2)公的マネージメント、人材資源及びインフラにおけるキャパシティ構築、(3)複製可能で地域に適合した実施メカニズムの採用、(4)モニタリングと中間時の修正、の4つの行動と、コミュニティの関与とオーナーシップ、長期的に予見可能なドナーの資金的・技術的支援が必要。社会サービスにおける人件費等管理費も支援すべき。
6.ガバナンスの脆弱性
「腐敗」政権によるものと、資金源と技術的なキャパシティの不足によるものがあり、多くは後者。ガバナンス強化には、(1)法の支配、(2)政治的・社会的権利、(3)透明で効率的な行政、(4)健全な経済政策、(5)市民社会、の強化が必要。
第3章.国レベルでのプロセスを支援するための国際システムに関する勧告
1. 今日の援助システムが抱える問題点と勧告
| (1) | 援助がMDGsに基づいて行われていない。 →援助国はMDGsを実施上の目的であることを確認し、途上国が作成するMDGsに依拠した貧困削減戦略(PRS)を支援の軸とすべき。 |
| (2) | それぞれの国が抱えるニーズに援助国が個別具体的に対応していない。 →途上国が必要としている援助の量や形(財政支援、緊急支援、技術支援等)を評価するクライテリアがない。ニーズに合わせて支援を区別化すべき。 |
| (3) | 援助国の支援が短期的なものに終わってしまっている。 →援助国は、途上国が、2015年までの10年間のニーズ把握に基づいた3~5年を対象とするMDGsに依拠したPRS作成を支援すべき。 |
| (4) | スケーリング・アップのための技術支援が適切でない。 →援助国は、技術支援の焦点を、途上国のMDGsに依拠したPRSの作成及び実施にあてるべき。 |
| (5) | マルチの援助機関が調整されていない。 →国連機関による技術貢献を調整するために、国連常駐調整官システムを大幅に強化すべき。 |
| (6) | 開発資金がMDGsを念頭にファイナンスされていない。 →MDGsに依拠したPRSによって判明する資金ギャップに従ってODAを供与すべき。ガバナンス良好国にODAを増額し、また、管理費への支出を増加すべき。 |
| (7) | 債務削減がMDGsと関連づけられていない。 →「債務持続性」は、「MDGs達成するのに十分な債務レベル」と定義し、多くの重債務国に対し劇的な債務削減額を増加すべき。同様に、低所得国に対する返済及び将来の支援は有償資金ではなく無償資金であるべき。 |
| (8) | 開発資金の質が非常に低い。 →予測可能性が低い、タイドである等の問題がある。二国間支援の援助国は、よりシンプルなメカニズム(セクター・ワイド・アプローチ(SWAPs)や財政支援、直接財政支援)を用い、また国際開発機関等のマルチを活用すべき。 |
| (9) | MDGsの優先分野が見落とされている。 →長期に亘る研究開発、環境保全、地域統合、国境を跨ぐインフラ等により注目すべき。 |
| (10) | 援助国に政策一貫性が欠けている。 →援助国は、自らの開発、財政、外交、貿易政策の一貫性を見直すべき。そのために、援助国は自らに、少なくとも途上国側に要求するのと同水準の透明性確保を課すと共に、独立した組織からのレビューを受けるべき。 |
2. 貿易
ドーハ・ラウンドの実現に向けて、相当に野心的な取組が必要。
3. 地域及び地球公共財
| (1) | 以下4つのタイプの地域公共財の供給を国際的にサポートし、またMDGsに依拠したPRSの中に組み込むべき。
(イ)運輸、エネルギー、水管理のためのインフラ整備 (ロ)国境を越える環境イシューに対する調整メカニズム (ハ)貿易政策の調整・調和化等を含む経済協力推進のための制度 (ニ)アフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)に代表される地域対話・コンセンサス形成のための政治協力 |
| (2) | 科学・技術の動員 貧困国は自ら科学技術分野に投資することが困難。資金不足による頭脳流出の問題も深刻。同分野では、2015年までに毎年70億ドルのニーズがある。ドナーは、高等教育、国際農業研究協議グループ等の研究機関に対する支援を強化すべき。 |
| (3) | 気候変動 飢餓や貧困対策等で出た成果も、気候変動によって台無しになるリスクがあり、気候変動も緊急の対策を必要とする開発における主要課題の一つ。 |
4. 2005年に取組を即開始すべし
MDGs達成期限である2015年までには10年間あり、10年単位の戦略で取り組めば達成は不可能ではない。一方、そのためには、以下のような取組を、2005年から早急に開始することが重要。右取組は、国連事務総長の下で、国連開発グループが中心となってリードするべき。
| (1) |
ファスト・トラック国の特定 極度にガバナンスの悪い国ではMDGs達成は困難。低所得国の中には、ガバナンスが良好でより野心的な計画を有している国もある。2005年に、こうした国は、「ファスト・トラックMDGsステータス」を与えられ、開発援助の受取増を保証されるべき。国を選ぶ際の基準としては、1)HIPCイニシアティブにおいて完了地点(CP)に到達している国、2)米のミレニアム・チャレンジ公社の支援対象となっている国、3)アフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)に参加している国、4)世銀/IMFによる貧困削減戦略ペーパー(PRSP)評価で良好な評価を受けた国、などが考えられる。 |
| (2) | MDGsに依拠した貧困削減戦略(PRS)の策定 関心のある全ての途上国は、2005年の終わりまでに、MDGsニーズ評価を行い、MDGsに依拠したPRSを策定すべき(多くの場合は、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)等の既存の計画の改訂の形を取ることを想定)。 |
| (3) | グローバルな人材育成 人材育成支援を2005年に(特に若年労働者に焦点を当てて)開始すべき。特に緊急となる人材は、村落専門家(保健医療、灌漑、飲料水等)、教員、医者、都市開発専門家(電気、運輸、ゴミ処理等)等。 |
| (4) | クイック・ウィン・イニシアティブ マラリア対策、給食等、早期に成功を収めることが可能な分野を特定し、3年単位の野心的な戦略を2005年に立てるべき。具体的には、2007年までにマラリアに苦しむアフリカ地域において、全ての子供に蚊帳を提供等。 |
| (5) | MDGs達成に向けた中所得国の(援助国への)取り込み 中所得国は、自らの貧困削減を完結させると共に、援助国の仲間入りを果たすという課題に直面。ブラジル、中国、マレイシア、メキシコ、南ア等は、より貧困に苦しむ国が直接裨益できるような知見を有している。2005年に、こうした知見を活用した協力を進めるチャンスを逃すべきではない。 |
第4章:MDGs達成するために必要なコストと便益
1. 目標達成に向けた資金の拡大
| (1) | MDGs達成のためのコストはいくらで、それを国内資金とドナーからの資金をどのような割合で当てるのか。目標を達成するには画一的な(One-size-fit-all)アプローチは有効でないので、それぞれの国におけるニーズ・アセスメントが重要。追加的に必要となるこうした資金の手当方法を考えるとき、課税ベースを拡大すること等によって国内資金の増大を念頭においたとしても、国内資金だけでは不十分であり、ODA増額が必要となる。 |
| (2) | 全ての国(低所得国)でMDGsを達成するための資金ギャップを埋めるためには、最終的には、2006年の1350億ドルから、2015年の1950億ドルのODAが必要となる。これはそれぞれGNP比では、0.44%と0.54%になる。 |
| (3) | 従って、ドナーは2006年から2015年にかけてODAをほぼ倍増させ、GNP比で最低0.5%を達成させる必要がある。更に、右計算では、主要なインフラ・プロジェクト、気候変動のために増額が必要となる資金、ポスト・コンフリクト国における復興支援、地政学的な理由により供与される資金を除外しているので、最終的にドナーは0.7%を達成すべき。これまで5つの高所得国がこの0.7%目標を達成し、その他には6カ国が達成期限を定めた。 |
| (4) | しかし、既存のコミットメントが全て果たされたとしても、開発資金は足りない。こうした中での資金ギャップを埋めるためにいくつかの革新的なメカニズムに関するイニシアティブが検討されているが、その中でも、英によるIFF(International Finance Facility)提案が、ODAを早期に増額させるという観点からは最も進んでいる。同構想は、早急なスケーリング・アップや、援助国の予算に過度の制限を加えない形での援助の前倒しの必要性に対応でき、2015年までに0.7%目標を達成できる。 |
2. 便益:野心的な10年間に向けて
| (1) | MDGs達成による便益は計り知れないが、MDGs達成は、絶対的貧困を撲滅する上での通過点に過ぎない。仮にMDGsが達成されたとしても、貧困は課題で有り続ける。最も貧しい国々は2015年以降もGDPの10-20%に該当する援助が、2025年まで必要。そのために高所得国は2015年以降も0.7%のODAを一定期間継続する必要がある。 |
| (2) | MDGsはまた世界の安全を考える上でも中心的な課題。ハイレベル委員会が言うように、人間開発と環境管理は、平和と安定と複雑に関連。同委員会が勧告しているように、例えば国連安保理の常任理事国入りを目指すような国は、2015年までに0.7%目標を達成するというコミットメントを果たす用意があってしかるべき。 |
| (3) | 改革や良い政策を実行している途上国に対して支援国側は、モンテレイ合意の精神に則り、援助量を増大させるというコミットメントを果たすことで報いなければならない。富める国は、自らのコミットメントを果たすことよりも貧しい国の責任の方を強調することで良いのかどうかを自省すべき。 |